悲恋の大空
 あなたの一番大切な存在はなんですか?


 両親、兄弟、友達、先生?


 それとも、(もの)


何故大切なの、なんで好きなの、どうして欲しいの、それをどうしたいの?


 もしかして…………。


 ──自分?


 ……。



[朝蔵 大空]
 「ねぇ卯月くん」


[卯月 神]
 「はい」


[朝蔵 大空]
 「週末、(うち)に来ない?」


[卯月 神]
 「朝蔵さんの……家ですか?」


[朝蔵 大空]
 「うん! あの、お泊まり的なやつ///」



 家族に卯月くんを会わせたことが無い、ずっと恥ずかしかったから、会わせようとしなかった。



[卯月 神]
 「……分かりました」


[朝蔵 大空]
 「やった! 楽しみだね」


[卯月 神]
 「失礼の無いように、頑張ります」


[朝蔵 大空]
 「そ、そんなかしこまらなくて良いよ〜……」



 卯月くんはやっぱり真面目、冷静で素っ気無い、でもそんな所が好き。


 種族が違っても好き、混じり合えないとしても、それでも好き。


 貴方が最初に、私の前に現れた時から、運命を感じていた。


 貴方が来てくれて、私の生活が明るくなった、何もかもが変わった気がした。



 ……。



 放課後、ひとりで家までの道を歩く。


 今日は卯月くんが家に泊まりに来る日。



[朝蔵 大空]
 「……」


[如月 凛]
 「ソラ様ー!」


[朝蔵 大空]
 「え?」



 リンさん?


 まだ居たんだ……。



[如月 凛]
 「はぁ、はぁはぁ……」


[朝蔵 大空]
 「だ、大丈夫ですか?」


[如月 凛]
 「あの、ミギヒロ様知りませんか?」



 え、ミギヒロ……?



[朝蔵 大空]
 「ミギヒロですか? ミギヒロなら、私の家か……商店街とか?」


[如月 凛]
 「そこにも居なくて……」



 リンさん、なんでミギヒロのこと探してるんだろ。



[朝蔵 大空]
 「あの、なんでミギヒロのこと……」


[アリリオ]
 「どこ探しても居ないね」


[朝蔵 大空]
 「……」



 …………誰?


 よく分かんないけど、かなり可愛い男の子。



[アリリオ]
 「あーれ、君と直接対面するのは初めてだっけ?」


[朝蔵 大空]
 「ん?」



 な、何を言われているのだろうか私は。



[アリリオ]
 「僕の名前はアリリオ、悪魔だよ」


[朝蔵 大空]
 「悪魔!?」



 2人目の悪魔!!



[アリリオ]
 「そうだ、大天使リン様」


[如月 凛]
 「なんですかアリリオ様?」


[アリリオ]
 「今は監視の目も無いようだし、僕らから例の話をするってのはどう? シン様ももう、半分やる気無いよね」


[如月 神]
 「ミギヒロ様は、何をお考えになっているか分からないですからねぇー」


[アリリオ]
 「データは十分集まったし、これ以上長引かせても、時間がもったないよ」



 な、なんの話をしているのふたりとも……。


 私はふたりに連れてかれ、人目が無いと言うことでカラオケの一室に3人で集まった。



[如月 凛]
 「おほー! これが人間界のビッグカルチャー! カラオケボックスなのですね! 初めて来ました〜! ひゃあ、なんか楽しいですぅ〜!」


[アリリオ]
 「音がうるさいねー、ここ」



 とりあえず来てみたけど、ふたりともカラオケ代分のお金持ってるのかな?


 まさか会計、私じゃないよね??


 ……。



[卯月 神]
 「あの、なんの前触れも無く、貴方のプライベート空間に連れて来られても困るんですけど」



 卯月はミギヒロに、薄紫色の不思議な世界に連れて来られる。



[加藤 右宏]
 「悪ぃな! 話済んダらすぐ解放してやっかラ」


[卯月 神]
 「話って?」


[加藤 右宏]
 「ああ、なァ契約破棄しないか?」


[卯月 神]
 「え……」


[加藤 右宏]
 「お前もあいつと一緒に居たら分かるダろ。 あいつは他人を救えるような器の人間じゃナい、人間は弱い生き物だガ、人間の中でモあいつは弱すギる」


[卯月 神]
 「弱くても、あの人は優しいですよ」


[加藤 右宏]
 「優しいじゃダメなんだよ、強く、強くないと。 オレさ……アレと話してきたよ」


[卯月 神]
 「アレ…………」


[加藤 右宏]
 「大空のことを、世界で一番愛しているノはお前じゃない、アレなんだ。 あの存在だけが、あいつを救えル」


[卯月 神]
 「そんなわけ、無いでしょう……」


[加藤 右宏]
 「ン?」


[卯月 神]
 「あんなの、あんな歪んだもの、今の朝蔵さんには必要ありません。 僕は認めない……あれは、何がなんでも、消滅すべき存在です」



 ……。



[朝蔵 大空]
 「その話、本当?」


[アリリオ]
 「うん」


[如月 凛]
 「はい」


[朝蔵 大空]
 「その試練を受ければ、卯月くんと一緒になれる?」



 私は聞いてしまった、ふたりから。


 そうか、卯月くんとミギヒロがずっと私に隠してたこと、この事だったんだ。



[アリリオ]
 「やる? 救済」


[朝蔵 大空]
 「私に出来るかな……」



 こんなダメな私が、すぐ泣いちゃう私が。


 人に助けられてばかりな私が。



[如月 凛]
 「きっと出来ますよ! やりましょう! ソラ様!!」


[アリリオ]
 「君なら出来るよ、アサクラソラさん」


[朝蔵 大空]
 「……ちょっと、考えさせて」



 ……。



[卯月 神]
 「初めまして、朝蔵さんの彼氏やらせてもらってる、卯月神と申します。 こちら僕のバイト先で取り扱ってるクッキー10種類セットです。 お受け取り下さい」


[朝蔵 葵]
 「まあ、丁寧にありがとうございます……」



 今日はお泊まり初日の夜。


 始めにお母さんに会わせてみたけど、お母さんなんて言うんだろ……?



[朝蔵 葵]
 「……優しそうな子ね!」



 『優しそう』って……。



[朝蔵 大空]
 「そのコメントやめて?」


[卯月 神]
 「え?」


[朝蔵 葵]
 「ごめんごめん、一度言ってみたかったのー」



 良い性格してるわ。



[卯月 神]
 「朝蔵さん? 『優しい』は褒め言葉なのでは?」


[朝蔵 大空]
 「人の彼氏に対しての第一声としては、微妙なの」


[卯月 神]
 「えぇ……」





 ガチャ。





[朝蔵 千夜]
 「たっだいまー!」


[朝蔵 真昼]
 「ただいまー」



 あ、お兄ちゃんと真昼が帰って来た。


 お兄ちゃん達、なんて言うんだろ……。



[朝蔵 千夜]
 「お、君が大空の彼氏くんだねー? どれどれ…………優しそうな子だね!!」


[卯月 神]
 「……」


[朝蔵 真昼]
 「学校で見掛ける度、優しそうな人だなって思っていたよ」



 お前らの第一印象最悪だよ。



[卯月 神]
 「いただきます」


[朝蔵 葵]
 「苦手なものあったら、残しても良いからね」


[卯月 神]
 「あ、大丈夫です。 苦手なもの無いです」



 こうやって卯月くんが、家の食卓に居るのって、なんか不思議な感覚!


 もう家族になっちゃったみたい!



[朝蔵 大空]
 「ミギヒロ、帰って来ないね」


[卯月 神]
 「……」


[朝蔵 真昼]
 「また家出かな?」


[朝蔵 千夜]
 「んじゃー、アイス買いに行く次いでに、ミギヒロくんを探しに行こう!」



 ミギヒロのほうが『次いで』なの笑える。



[朝蔵 葵]
 「お母さん、車出そうか?」



 モールへ、レッツゴー!



[朝蔵 千夜]
 「僕は、ぱんだアイス!」


[朝蔵 真昼]
 「バリバリちゃんにしよっと」


[朝蔵 葵]
 「お母さんは『砂糖系イケメン特集』にするわ!」


[朝蔵 大空]
 「アイスじゃないじゃん……」


[卯月 神]
 「……」



 あれ、卯月くんまだアイス選んでない。



[朝蔵 大空]
 「卯月くんは?」


[卯月 神]
 「僕も良いんですか?」


[朝蔵 葵]
 「うん、いいよ」



 お母さんが卯月くんに、アイスを選んで良いと許可を出す。



[卯月 神]
 「じゃあ……これで」



 卯月くんが選んだのは、王道バニラとミルクのフレーバーが最高な、『ウルトラカップ』……。


 私と一緒だ!



[朝蔵 大空]
 「お揃いだね♪」


[卯月 神]
 「はい」


[朝蔵 葵]
 「買い物済んだし、帰るわよ〜」



 帰る、その前に……。



[朝蔵 大空]
 「私トイレ行きたーい!」


[卯月 神]
 「……」



 しまった、卯月くんがいる前で堂々とトイレとか……ま、いっか!


 先に皆を車に戻らせて、私はひとりトイレに寄る。



[朝蔵 大空]
 「ふぅ……あれ」


[加藤 右宏]
 「……」



 ミギヒロが近くのベンチに座っているのが見えた。


 私はその横に、静かに腰掛ける。



[朝蔵 大空]
 「あんた居るなら言いなさいよ、あんただけアイス買ってもらえてなくてざまぁー!」


[加藤 右宏]
 「……」



 だんまり。


 あ、なんか機嫌悪いかもこいつ……。


 こいつたまに無口なのよね。



[朝蔵 大空]
 「って、言うのは冗談で……あんたもアイス要る? 今ならこの私が奢ってあげ……」


[加藤 右宏]
 「どうでもいい」



 そう言うと、ミギヒロは私の肩をガッと掴む。



[朝蔵 大空]
 「痛っ! や、やめなさいよ!」


[加藤 右宏]
 「16時2分から17時29分の間、お前はどこに居た?」


[朝蔵 大空]
 「はぁ?」



 その時間って、私とリンさんとアリリオ? くんで、カラオケに居た時間だ……。


 なんでこいつは、そんな細かい時間で聞いてくるの?



[朝蔵 大空]
 「えっと、ヒトカラだけど」


[加藤 右宏]
 「ヒトカラ……?」


[朝蔵 大空]
 「カラオケでひとりで歌ってたってこと、それが何?」


[加藤 右宏]
 「……」


[朝蔵 大空]
 「で、あんたこそ今まで何してたのよ?」



 なんとなく、リンさん達のことは言わないほうが良い気がした、今日話されたこともなんか、秘密の会話っぽかったし。



[加藤 右宏]
 「……」



 ずっと黙ってる。



[朝蔵 大空]
 「よく分かんない奴ねー。 アイス買ってあげるから、帰ろうよ。 今日は卯月くんが居るから、お父さんの部屋で寝てね!」


[加藤 右宏]
 「お前、最終的に卯月とドうなるつもりなんダ?」



 私と卯月くんは……。



[朝蔵 大空]
 「結婚する! 私は卯月くんが世界で一番好きだしー、卯月くんも私のこと……」


[加藤 右宏]
 「じゃあもう、自分で自分を呪うの、やめてくれる?」



 ──え……。



[朝蔵 大空]
 「自分で自分を呪う……はぁ? ちょっと、変なこと言わないでよ! 中二病もいい加減にして、そう言うノリ私には分からないか……ら」



 あ……。



[加藤 右宏]
 「ドうした?」



 私、何やってんだろ。



[朝蔵 大空]
 「……ごめん、お母さんが早く戻れって言ってるから、私先に帰るね」


[加藤 右宏]
 「お前はいつまデ、逃ゲるつもりなんダよ」



 背後から聞こえてくる、ミギヒロの声なんか聞こえない、もう全部背けたい。


 今の私には卯月くんがいる、思い出させようとしないで。



[朝蔵 真昼]
 「遅い」


[朝蔵 大空]
 「えと、ごめん」


[朝蔵 葵]
 「よーし、銭湯行きたい人〜?」


[朝蔵 千夜]
 「行く!!」



 ……。


 その日の夜。



[卯月 神]
 「ぼ、僕はどこで寝れば……」


[朝蔵 大空]
 「私とベッド……ダメ?」


[卯月 神]
 「……分かりました」



 私と卯月くんは薄暗い部屋に、同じベッドに寝転がる。


 私の右隣に、卯月くんが居る。



[卯月 神]
 「寝るんですか?」


[朝蔵 大空]
 「うん……ねぇ」


[卯月 神]
 「はい?」


[朝蔵 大空]
 「抱き締めて?」


[卯月 神]
 「……はい」



 卯月くんが、優しく私を抱き締める。



[朝蔵 大空]
 「撫でてほしい」


[卯月 神]
 「どこですか?」


[朝蔵 大空]
 「頭かな」



 温かい卯月くんの手のひらが、私の頭を撫でる。



[卯月 神]
 「これで良いですか?」


[朝蔵 大空]
 「うん、めっちゃ良い」



 貴方の腕の中は、安心出来て癒される。



[卯月 神]
 「まだ続けたほうが良いですか?」



 私は、貴方がいないと生きていけない。


 だからずっと、傍にいて。



[朝蔵 大空]
 「……」


[卯月 神]
 「朝蔵さん?」



 あぁ、寝ちゃいそう……。



[朝蔵 大空]
 「やっぱ……似てるなぁ」



 私は満足して、眠りにつく。



[卯月 神]
 「…………誰にですか?」



 静かな部屋に、卯月の声だけが響いた。





 「報連相」おわり……。
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