私を導く魔法薬
 しかし彼は真剣な声だった。
 
「やはり俺の心配をしてくれていたのか。気の優しいお前のことだ、周りなど気にしなければ良いと言ったところで無理だろう…俺の存在がお前を苦しめているのなら、俺はまた旅立とうと思う」

 それを聞いたとたん、ダリアは頭が冷え我に返った。

 彼はたった数日の仲とはいえ、せっかく出来た良き理解者だった。
 その彼がまた自分から離れていく。
 彼ほど自分を理解しようとしてくれていた者など今までにいただろうか?

「…お前には魔法薬を作り出す腕がある。そして患者をしっかりと診ようという真剣な気持ちがある。お前はここでなくとも、これからも誰かの役に立てるだろう。俺も目覚めた魔力を発揮できるような、自分を必要とされる場所を探すとしよう」

「ま…待っ…!!」

 彼女は急いで戸を開く。

「本当にお前に逢えてよかった。お前には迷惑かもしれないが、俺の名を覚えていてほしい。お前といつかの再会を強く願って…」

 彼は真剣な表情で自分の名を告げ、ダリアは何も言えないまま彼の名をしっかりと心に刻んだ。

「ありがとう。愛らしく優しい魔女、ダリア…」

 彼は本当に穏やかに笑みを浮かべて礼を言うと、少し寂しげにその場を去っていく。

「…待ってよ…お願……」

 ダリアは言葉がもう出ては来ず、力が抜け足から崩折れ、彼を追いかけることもできなかった。

 自分は別れたくないと、なぜ彼にそう言えなかったのだろう…
< 38 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop