【設定③】ずっと隣にいてほしい。
帰省と縁談。
帰省と縁談と。

 入学して月日は流れた――現在はもう三年生の冬だ。
 あれから私たちは、ランクアップを順調に進めてすでに五級ランクにいた。
「愛結さん、紅茶淹れたので飲んでください」
「ありがとう、蒼志くん」
 そして距離も縮まり、名前で呼ぶ関係となっている。
「そうだ、蒼志くんは実家には帰省するの?」
「はい。もう卒業ですので……それに父に帰って来いと言われています」
「そうなのね、私も父に帰省して欲しいと言われてたからちょうどいいわね」
 帰省を拒否していた私だが、卒業が近いし将来のことの話し合いもある。それと、卒業してからも蒼志くんにそばにいて欲しいと思っている。
 この気持ちを表現するのは難しいが、彼が誰か違うお嬢様に仕えると思ったらとてもモヤモヤするからだ。



 そうして、冬休みになった。私は予定通りに家に帰るのでキリシマが迎えにきてくれるとのことだった。
「では、愛結さん。また」
「えぇ。蒼志くんもまたね……気をつけて」
 蒼志くんと別れてキリシマの迎えを待っていると「愛結ちゃん!」と声がして振り向く。
「ありるちゃん。どうしたの?」
「私も迎えを待ってるの。愛結ちゃんも、卒業前には帰省するんだね」
「うん。将来のこともあるし、色々話したいことたくさんあるから」
「まぁ、そうよね。私も、帰ったらお見合い三昧よ」
 お見合い三昧か……ってことは選べるってことよね。羨ましい。きっと私には拒否権なく相手を決められるんだろう。この帰省で、相手を言われるんだと予測している。
 その後、ありるちゃんと私は迎えが来たので校門の前で別れた。



 ***


 帰宅すると、あんなに心地の悪い場所だった離れが懐かしくて居心地がいい。
「愛結お嬢様、こちらに置いておいてもよろしいでしょうか」
「ありがとう、キリシマ」
「いいえ。今日はお疲れだと思いますので、甘いものも」
「あはは、よくわかってるわね……疲れは過去形ではなくてこれからだけどねぇ」
「エネルギーは貯めておかないとですよ。飲んでくださいませ……今から出陣するのですから」
 確かに出陣だわ。
 あの人と話すのは少し疲れるもの……
 私はキリシマと共に離れを出ると、学園に入学前ぶりのお父様の書斎に向かった。


 書斎に入れば、いつもムスッとして私をまるで汚いものを見るような瞳をするお父様が今日は微笑んでいる。
「お帰りなさい、愛結」
「ただいま帰りました、お父様」
 お父様にソファで座るように促されて私が座れば「私からも話があるんだ」と言われる。
「……話とはなんでしょうか?」
「あぁ、愛結に縁談が来ているんだ!」
「縁談、ですか?」
「あぁ。湯浅(ゆあさ)グループを知っているだろう? その湯浅のご子息をうちの婿にやってもいいって」
 湯浅グループが、子息を婿に出すって……それにご子息って、長男じゃなかったっけ。長男は、確か政治家の娘だと聞いたし。
「その方は、ご長男ではない方なのですか?」
「そうだな、長男ではない。その長男とは異母兄弟の弟だ。悪く言えば、愛人の子どもだ」
「あ、愛人!?」
「あぁ。だが、優秀らしくてなぁ……打診されて即OKしてしまったよ。あっはっはっ」
 あっはっはっ、じゃないんですが……何故、勝手にOK出してるの!? だが、嫌だと言っても湯浅グループも大きな会社だ。了承したのを断ることは出来ないだろう。
「……分かりました。その縁談お受けします。ですが、条件がございます」
「なんだ?」
「私の執事をキリシマともう一人付けたいのです。今、学園で執事をしてくださっている方で信頼しています」
「あぁ、そのことなんだが彼は退学することになった」
 え……たいがく、退学っ?
「どうしてですか!? なぜ退学に?」
「婚姻前に、男女二人が住むのはよくないとあちらの判断だ」
「なぜ私ではないのですか?」
「愛結は四宮家の嫡子だ。当主となるお前が、高校卒業していないなんていけないだろう。愛結は大学進学も決まっているのだから」
 なにそれ……それじゃあ、蒼志くんは被害者じゃない。私のせいで彼の人生をグチャグチャにしてしまうってことだ。
「私、学園に帰ります」
「は? 帰ってどうする? もうすでに学園から退学しているよ。もう、いないだろう」
「……っどうして」
「仕方ないだろう。どうせ、その執事は、一般家庭の出身なのだから」
 そう言ったお父様は狂ったように笑った。
「帰りたいなら帰ったらいい。現実は変わらないのだから」
 その言葉に私は、彼が退学した事実を確かめるために学園に戻ることにした。


 


 
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