【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「さぁ、シリウス殿下。あなた様が王位に就くことは決まったも同然。この僕を次の宰相に推すと、円卓会議で公表してくださいませ」

「断る。貴殿を次の宰相に任じたら、この国が滅ぶ」

「は? いえいえ! 約束したではありませんか! ほら、書面だってここに」

 押しつけられた契約書面を、シリウスは無表情で眺める。

「たしかに俺は貴殿を宰相に任じると書いた。だが【今すぐに】とは書いていない」

「はい? 何を仰っているのか……」

「カルミア侯爵子息、貴殿もお父上同様、相当金に汚いようだ。これまで数え切れないほどの悪事に手を染めてきたのだろう。いま把握している罪状だけで、刑期は軽く80年を超える」

「まさか……宰相する前に、僕を牢に入れるというのですか! 約束が違う!」

「俺は貴殿に恩赦を与えるとは言っていない」

 ダンッと机を叩き抗議するダニエル。だが、シリウスに冷ややかな目で睨まれ、絶望したようにガックリその場に膝をついた。
 
 シリウスは腕を組み、ゆったり足を組み替えて、絶望するダニエルを無慈悲に見下ろす。

「貴殿はいま二十歳過ぎだったな。獄中で80年。全ての罪を悔い改め、改心したら宰相にしてやろう。だからせいぜい――百歳まで頑張りたまえ」

 
 冷酷無比な美貌の王子は、冷ややかな笑みを浮かべ、ダニエルの望みを容赦なく切り捨てた。

 
 ちなみに、現在のアストレア王国の平均寿命は四、五十代。
 
 ダニエル・カルミアの野望は、儚く消え去った――。
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