【コミカライズ配信中】アデル~顔も名前も捨てた。すべては、私を破滅させた妹聖女を追い詰め、幸せをつかむため~
「ところで、君は――?」

 聞きたいことは山ほどあるけれど、私は『エスターの親友アデル』として名乗り、ここに来た理由を述べる。

「私、アデル・シレーネと申します。エスターとは親友でした。私は共和国で療養していたので、まだお墓参りが出来ておらず……今日はエスターの誕生日のため、花をたむけに参りました」

「そうか。……彼女がシレーネ商会に通っていたのは、やはり友人に会うためか」

 後半は、あまりに小さな呟きだったため聞こえなかった。
 
 首をかしげる私に、シリウスは「何でもない」と首を振った。そして再び、私の墓標に目を落とす。

 憂いを帯びた横顔は儚げで、悲しそうで……私は目が離せなくなった。
 
 さぁっと風が吹き、墓石を飾る花がかすかに揺れる。
 
 シリウスが持って来たのは、愛らしいネモフィラの花束だった。
 
 ふわふわと風に揺れる淡い水色の花びら。
 悲しげに目を伏せるシリウス殿下の横顔。

 ぼんやりそれらを眺めていたとき、頭の中におぼろげな光景が蘇った。

 
 ――『私たち、ずっと友達よ! === 』
 
 
 私が、誰かの名前を呼ぶ。
 
 差し出される花。懐かしい子どもの声。
 にっこり笑う、===の顔。

 
 突然フラッシュバックした記憶の断片に、私は戸惑う。
 
 
 今のなに……? と思った瞬間、脳内の光景が、テレビの電源が切れるようにプツリと途絶えた。
 
 
「シレーネ令嬢? 顔色が悪いが、大丈夫か」

 
 気付けばシリウスが私の顔を気遣わしげに覗き込んでいた。
< 57 / 226 >

この作品をシェア

pagetop