クールな黒淵くんは甘い。
SSS室をもう出ると言うタイミングで名前を呼ばれる。
黒淵くん……の声だよね…?
久しぶりに呼ばれた自分の名前が嬉しいのと、変な期待で胸が張り裂けそうだった。
振り返りそうになるのを必死で抑える。自分が今どんな顔をしているのか分からなくて、怖かったから。
いつもの、低くて、でも安心する声を待つ。
「……何かあったら言えよ。」
「うん。」
扉を開けてSSS室を出る。
「何それ……。」
どういう意味なの…?分からないよ黒淵くん。
走って、走って、寮部屋の扉を開ける。靴も転げ落ちるのも気にしないで、リビングの君と一緒に座ったソファーに、今は一人で座った。
「何でも言ってって言ったの私の方だよ……。」
春華ちゃんが好きなことも。
春華ちゃんと付き合ったことも。
私が好きじゃないことも。
全部、話してくれれば楽だったのに。
「黒淵くんが……クールじゃなくて、もっともっと甘かったらよかったのに。」
目が熱い。涙も熱い。
一人で住むにはこの寮部屋は広すぎて。
君を思い出してしまって、嫌だ。