笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
三、夫婦の時間
三、夫婦の時間

 アリッサが城に来てからというもの、リシャールは一日も欠かさず部屋を訪ねてきてくれる。
「やぁ、アリッサ。今日の薄紫色のドレスは君によく似合うね」
「日々の祈りで疲れてはいないか?」
「俺は君と過ごす時間を楽しみにしているから」
蝋人形にも、こんなふうに優しい言葉をかけてくれるのだ。

(リシャールさま、昔とは別人のようだわ。そうよね、あれから何年も経っているんだもの)
 アリッサはかつて一度だけ、彼と言葉を交わしたときのことを思い返す。
(あの頃のリシャールさまは、もっとフランクな言葉遣いで……)
 最大限にオブラートで包んだ表現をしたが、ずばり言ってしまうと……当時のリシャールは口の悪い小生意気な少年だったということだ。

 幼き日の彼の声が耳に蘇る。
『聖女候補生? ふぅーん』
 華やかな王都とこれから始まる生活への不安をアリッサが口にすると、彼は不敵な笑みを見せた。
『自意識過剰だな! お前みたいなあか抜けない田舎娘に大聖堂もたいして期待してないだろ』
 ものすごく馬鹿にされたわけだけれど、不思議と腹が立つよりホッと肩の力が抜けた。身体のこわばりが解けて、楽に呼吸ができるようになった。
『リシャール! なにをしてるんだ』
 父親らしき人が彼を呼ぶ。
『げっ。じゃーな、田舎娘』
(リシャール……さま……)
 去り際の彼の笑顔。それがアリッサの心に住み着いてしまった。

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