笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
一、笑わぬ聖女の結婚
一、笑わぬ聖女の結婚

「大聖女アリッサ。ようこそ、我がエスファーン領へ」
 夫となるリシャール・エスファーン侯爵はにこやかにほほ笑み、アリッサの手を取る。このままでは手の甲に口づけされてしまう! そう察したアリッサは素早く手を引っ込め、身体の後ろに隠した。
 それから、じっと彼を観察する。
(顔が……よすぎる。まばゆいほどの美貌。大天使の化身と謳われているけれど、それ以上だわ。この唇が私なんかの手に触れるなんて、絶対に許されることじゃない)
 この世で一番美しいものはリシャールだ、とアリッサは思う。
 こんな調子で、心のなかではスラスラと彼への賛辞を語っているが、アリッサの表情はぴくりとも動いていない。呪詛を唱えるような低い声で「……ありがとうございます」と答えただけだ。
 あまりに愛想のないアリッサの態度にリシャールは戸惑ったように目を瞬く。
(あぁ、瞬きで生じる風すらも清らか。それにしても、リシャールさまが私の目の前にいるだなんて!)
 驚くほどに無愛想な態度を取っているアリッサだが、こう見えてリシャールに恋をしている。といっても、幼き日の淡い恋心を後生大事に抱え続けてきただけだけれども。
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