笑わぬ聖女の結婚~私の笑顔を見たいがあまり、旦那さまがヤンデレ化しています~
五、どうか、そばに……
五、どうか、そばに……

 話し終えたアリッサはひと息つく。
「そういうわけなので、私はリシャールさまのそばにいると聖女の力が弱まってしまうのです。なのでもう妻という立場は……」
「それは、つまり……」
 リシャールの唇がわななく。さすがの彼も、聖女の役目を果たせなくなることには複雑な思いがあるのだろう。
 ところが次の瞬間、彼は喜色満面になって言う。彼のこんな顔を見るのは初めてだ。
「アリッサは俺が嫌いで笑わなかった、わけではないんだな!?」
「は、はい。笑うとマナが減ってしまうので……リシャールさまのことは嫌いでは……」
 そう言いかけてアリッサは思う。
(ううん。嫌いじゃないは正確でないわ。私は――)
「リシャールさまのことは……その……とても好いております」
 アリッサは、おそらく初めて彼に笑顔を見せた。照れたような、はにかむような、控えめな笑みだ。
「アリッサの笑顔はいいな。何物にも代えがたい」
リシャールの顔が子どもみたいに無邪気に輝く。まぶしくて直視できずアリッサはパッと顔を背けた。
「そんな顔を見せるのは、今日を最後としてください。このままでは、本当に聖女の力を……」
 リシャールは柔らかく笑むと「少し待て」と言って、奥の戸棚になにかを取りに行った。戻ってきた彼が手にしているのは小さな手鏡だ。リシャールは「見ろ」とアリッサの顔の前にそれを突き出す。

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