キミと放送室。
2




「あれ?開いてる…」



次の日のお昼休み、放送室の鍵が既に開いていた。


何となく察しはついたけれど、一応「失礼します」と言って暗幕をくぐった。



中には昨日の男子生徒が居て、また窓をカラカラと開けていた。


「こんにちは」

私がそう声をかけると、

「どーも」

と返ってきた。



「鍵、持ってるんですか?」


「持ってるよ」


放送委員でもないのにどうして鍵を持っているのか不思議に思いながらも、昨日出来なかった機械の立ち上げとCD選びを進めることにした。


一つひとつ、マニュアル通りに操作していく。



「…よし」

ようやく音楽が鳴り始めたけれど、5分も掛かってしまった。


私がやり終えた感を出していると、真横に手が伸びてきて、ボリューム調節レバーを5のメモリまで上げた。


「マニュアルには3って」

「このレバー調子悪いから5のメモリまで上げないと音小さくて聞こえない」


「そ、そうなんですか?」


さすが、放送委員の仕事を代理でやってきただけある。いつからやってるのか知らないけど。


「教えてくれてありがとうございます」

私はぺこりと頭を下げた。

「別に」


「あの、……自己紹介をしませんか」

「は?」

「同じ空間にいるのに、名前も知らないってどうなのかなって。私は日高栞です。2年1組。先輩ですよね?上履きグリーンだし…」



一気に喋ったからその後の沈黙がより静かに感じた。



「…名波(ななみ) (わたる)。3年3組」


「名波先輩、よろしくお願いします。…じゃあ、えーっと…おやすみなさい」


私がそう言うと、名波先輩は笑って「おやすみ」と言って奥の部屋のソファに昨日と同じように横になった。


絶対変な奴だと思われた気がする。




でも、自己紹介をしたことで知らない生徒では無くなった。



私は何となく気まずさが和らいだのが嬉しくて、鼻歌を歌いながらお弁当を広げた。






私たちは、それからお昼休みが終わるまで一言も喋ることはなく自分の時間を過ごした。




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