新そよ風に乗って 〜慈愛〜
慌てて、カウンターの女性と話している高橋さんのジャケットの裾を引っ張った
「ん?」
「高橋さん。私は、エコノミーなので向こうのカウンターなんです。だから、手続きは此処じゃないんですよ。バゲージも行っちゃって、どうしたら……」
「高橋様。いつもありがとうございます。よろしければ、ファーストクラスのお席が空いておりますので、そちらにチェンジも出来ますが。如何致しましょうか?」
何? 
何を言ってるの? このカウンターの女の人。だって、最初から高橋さんはファーストクラスのはず。
「ありがとうございます。でも、今日はいいです。連れがいますので、そのままで」
はい?
高橋さんとカウンターの女性との会話が、全く理解出来ない。
「さようでございますか。かしこまりました。それでは、ご出発が、本日11時発、NN10便ニューヨークまでの2名様で。お名前は、高橋貴博様、矢島陽子様。お帰りは、現地出発時間ニューヨーク・ケネディ空港12時15分発、NN9便羽田行きでよろしいでしょうか?」
「はい。それから……」
「はい」
高橋さんが言い掛けてから、担当の女性にカウンター越しに若干近づいたからなのか、カウンターの女性がうっとりしながら返事をした。
高橋さん……オーラ出しまくってない?
後ろに居る私には、高橋さんの背中しか見えないので、今どんな表情をしているのか読み取ることが出来ない。
「シートは、出来ればACかHKの5と6にして頂けると嬉しいのですが」
「かしこまりました。今、お調べ致します」
何?
ACかHKの5と6って……。
「お待たせ致しました。ACの方が空いておりますので、そちらに変更させて頂きます。それでは、お帰りの便も同じシートでお席をご用意しておきましょうか? もし、変更されたい場合でも、お帰りの当日にシートの変更は可能でございますので」
「ありがとうございます。では、そうして頂けますか」
全然、分からない。座席の話をしているのは、何となく分かるのだけれど……。
「パスポートのご呈示、ありがとうございました。こちらが搭乗券で、こちらがお帰りのeチケットになります」
「はい」
「お待たせ致しました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
何だか、手続きは終わったようだった。此処で、私の手続きも出来たのかな?
パスポートと搭乗券をジャケットの内ポケットにしまった高橋さんが、こちらを向いた。
「手続き終了。手ぶらになって、スッキリしたな。パスポートと搭乗券、なくすなよ」
「はい。ありがとうございます」
手渡されたパスポートと搭乗券をバッグにしまおうとして、ふと搭乗券にが目がいった。
何……これ?
「た、高橋さん。高橋さんの搭乗券を、見せて頂けますか?」
もしかして、私の搭乗券と入れ替わっちゃっているんじゃ……。
「俺の?」
そういうと、高橋さんはジャケットの内ポケットから先ほどしまった搭乗券を出すと、私に差し出してくれた。
見ると、高橋さんの搭乗券も同じブルーの縁取りだった。
「高橋さん。これ……」
自分の搭乗券を、高橋さんが差し出してくれている搭乗券の横に並べた。
「ん? ネームのスペル、間違ってるか? 一応、確認したんだが」
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