狼の目に涙
今日も帰宅部を極めるため、廊下の途中ですれ違った名前も知らない先生に軽い会釈とさようならを言い、下駄箱で下靴に履き替えて校門を出た。
私の家まで歩いて二十分。夜ご飯は何を食べようか考えながら帰るのが日課。
一人暮らしだと週の半ばにかけて自炊が面倒になることがあるけど、そんな時に外食を選択肢に入れられるほど裕福ではない私は、ズボラ飯を考えるしかない。

携帯をスカートのポケットから出して、冷蔵庫に何が余っていたか想像しながら、その食材を使ったズボラ飯を検索する。
この検索機能は私だけでは思いつかないおかずが無限に画面に並ぶから、一ヶ月のうち三分の一はお世話になっている。

『小松菜キムチ丼。これならできそう』

野菜を煮物にするしか脳がないので、キムチと炒めてご飯にかけるのは私にとって革命。

よし、今日はこれで決まりだ。
いつもより早く夜ご飯のメニューが決まって、家に向かう足が少し早くなった。
それなのに目の前で仰向けでうなだれている男の人を見て、小松菜キムチ丼は頭の中から消え去った。
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