私のボディーガード君
浅羽の方を振り返ると、弱々しい笑みを浮かべた。

「5分でいいから話したい。妃奈子さんが心配なんだ」

眉尻を下げた表情は本当に私の事を心配してくれているようだった。

「わかった。5分だけ聞く」

窓際のテーブル席に浅羽と向かい合って座った。
私と2人だけで話したいと言われたので、若林さんにはカウンター席で控えてもらっている。

「それで犯人は誰なの?」

友美が淹れ直してくれたコーヒーを飲んでから訊いた。
コーヒーカップを見つめていた浅羽が深刻そうなため息をつく。

「その前に確認したい事がある。妃奈子さんは厚労大臣、佐伯洋子の娘なの?」

切れ長の目がじっとこっちを見る。
ごく親しい人にしか母の事は言っていなかった。

「うん」
頷くと、浅羽がゆっくりと眉を上げた。

「驚いた。本当だったんだ」
「誰に聞いたの?」
「知り合いの記者。厚労省の記者クラブに入っていてね。そこで大臣の娘が狙われているという噂を聞いたらしい。まあ、あくまでも噂レベルだけどね。しかし、その男は噂ではないと思った。それで妃奈子さんの事を知っているかと僕に聞いて来た」
「何て答えたの?」
「知らないと言っておいたから、彼が妃奈子さんにつきまとう事はないと思う」
「ありがとう」

お礼を言うと浅羽がニコッ微笑んだ。

「妃奈子さんの役に立てて嬉しいよ」

にこやかに話す浅羽を見て胸がざわつく。

つき合っていた時、浅羽はいつも私に会うと嬉しそうにしてくれた。そして、好きだと恥ずかしくなるぐらい言ってくれた。

あんな風に言ってくれた人は浅羽が初めて。
最後は浅羽に失望したけど、一緒にいて幸せだと思った時もあった。

浅羽の笑顔を見ると、幸せだった頃を思い出して鈍く胸が痛む。
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