私のボディーガード君
「どうして彼女の名前を……」

「浅羽さん、昨日、綾子さんとお見合いをしたんですって。それで元許嫁の事が好きだってハッキリと言われたそうよ。三田村君モテるわね。元許嫁ってあなたでしょ? 神宮寺製薬のお嬢様と許嫁になるだなんて、さすが経済界の帝、三田村幸蔵の息子ね」

「妃奈子さん、俺の事調べたんですか?」
三田村君が眉間に皺を作り、傷ついたような表情を浮かべた。

「三田村君が話してくれないから、調べるしかないじゃない」
「聞いてくれれば答えたのに」
「答えないでしょ? 昨日だってお嬢様の事、ただの古い知り合いだと言ってはぐらかしたじゃない。私に知られたくない事が沢山あるんでしょ? 秋山さんに口止めされている事とか。倉田浩介の事とか」

三田村君の表情が驚きでいっぱいになる。

「酷いよ、三田村君。私は三田村君に心を開いていたのに、秘密を持つなんて。私一人でバカみたいじゃない」

「妃奈子さん、すみません。倉田浩介の事は言えないんです。それ以外の事でしたら、お話ししますから」

三田村君の顔を見ていると、イライラしてくる。

「結構よ! 出て行って。三田村君の顔を見ているとイライラするの!」
「そう言われましても。妃奈子さんをお守りするのが仕事ですから」
「だったら研究室の外に出てドアの前で見張っていればいいでしょ!」

私の言葉に怒っているのか、傷ついているのか、わからないけど、三田村君は険しい表情でこっちを見た。そんな三田村君にも腹が立つ。

「これ以上、私を感情的にさせないで」

三田村君は私に会釈をして研究室を出て行った。
パタンと閉まったドアを見て、胸がズキッと痛くなる。

やってしまった。
もう三田村君と仲直りできないかも。それぐらいハッキリ言ってしまった。

34歳にもなって何をやっているんだろう。
じわりと浮かんで来た涙を拭って、机に突っ伏した。
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