私のボディーガード君
 彼が飲んだ分もお会計をしてバーを出ると、身を切るような冷たい風に襲われた。寒さに思わず身をすくめる。一層惨めさが増すようで、何だか切ない。

 クリスマスイブまであと一週間だったのに……。
 今年こそは彼氏のいるイブを体験できるかと期待していたけど、別れちゃった。

 あー手をつないで歩くカップルがうらやましい。

 男性に触れると鳥肌が立ち、吐いてしまう体質の私には絶対にできない。

 どうしてもつき合って欲しい、私が大好きだと土下座までして言ってくれたからつき合ったけど、男性アレルギーの私に結局は彼も嫌気をさしたよう。

 スーツを汚して悪い事したな。せめてクリーニング代だけでも払わせて欲しいけど、手も握らせなかった偏屈な女と関わるのはもう嫌だよね。

 謝罪のメッセージを送ったけど、既読さえつかない。

 完全に嫌われたな。
 
 普通の体質だったら別れなかったのかな。
 こんな私を愛してくれる人なんかいないよね。

 もういいんだ。私は一生一人でいるから。
 もう二度と恋なんかしない。

 じわりと浮かんだ涙にイルミネーションで輝く街の景色が歪む。ああ、寂しい……。
 こういう時はお酒だ。
 いつも行く女性スタッフしかいないカラオケで飲もう。

 嫌な事は飲んで歌って忘れる主義。今夜もお酒の力を借りよう。

 ここまではいつも通りの出来事だった。

 だけど――

 翌朝、目を覚ますと知らない男が私の部屋にいた。
 同じベッドでは寝ていなかったけど、私のベッドの下に黒いコート姿の男が寝転がっていた。
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