意地悪警察官さんは、同担拒否で、甘々で。 ーワケアリ暴君様と同居していますー

第7話


〇昼間 ロウの家 寝室

あい「ロウくんっ!!!」

思わず叫びながら、寝ているロウを守るように上に覆いかぶさるあい。
大河は、彩が持っているナイフを後ろから掴んで奪う。

だが、何も起きない。その場にいる全員が状況を把握できず、困惑。

彩・ロウ「え……?」

驚いた声を出す彩とロウ。ふたりとも具合が悪そうな苦しそうな顔をしている。
彩の手元には皮を剥きかけのリンゴが。

あい・大河「…………」



〇昼間 ロウの家 リビング

あい「ほんっとうにごめんなさい!!!」
ロウ「いや……オレもごめんね、びっくりしたよね……あんな電話きたら……」
彩「私も……怖く見えたよねあんな顔で包丁持ってたら……」

しょんぼりした様子のロウと彩。
申し訳なさで小さくなっているあいと、恥ずかしくて顔に力が入って怖い顔になっている大河。

大河「結局……二人とも具合が悪くて買い出し頼みたかった、ってことか?」
ロウ「そう、だけど……電話中にうっかり切っちゃって……心配かけてごめんね、二人とも……」

あい、その言葉にぶんぶん頭を振って否定する。

あい(もう! ほんと恥ずかしい!)

ロウ「ネットスーパーで頼めそうだから、もう大丈夫だよ。……うつると悪いし、また今度遊びにきてね……」
彩「ごめんね……私がリンゴ切るのもへたくそなばっかりに……ホラーに見えたんだよね……」

しょんぼりとした顔の彩とロウに見送られて、部屋を出るあいと大河。



〇昼 街中

マンションのエレベーターを出てから、へろへろとその場にしゃがみこむあい。

大河「……どうしたんだよ」
あい「……ほっとして力抜けたのと、はやとちりで恥ずかしいのとで、なんか……動けないー……」

大河、黙ってあいの隣で立っている。
ぽつりとささやくあい。

あい「ていうか、さ……私、彩さんのことまだどっかで……ワルモノみたいに思ってるのかな……やだな……」
大河「……」

あい(……ていうか、早とちりして呼び出しやがってって大河さんに怒られそう……二重にしょんぼりだよ……)

落ち込んでしゃがみこんだままのあいの目の前に、そっと手が差し出される。びっくりして顔をあげると、
眉間のシワは刻まれたままながらも、笑った顔の大河が手をこちらに向けていた。

おずおずとその手を取るあい。

あい「う、わ……!」

ぐっとあいの身体がもちあげられて、勢いがついてしまった分は大河の身体が受け止める。
あいの身体がぐらついた分もまったく意に介さずぶれない、がっしりとした大河の身体に自分の身体全体で触れてしまって
またドキっとするあい。大河に手を握られたまま、もう片方の手で抱きしめられるような恰好になっている。

大河はあいが立ち上がれたのを確認すると、パッと手を離して歩きだす。

あい「ありがとう……」
大河「どーいたしまして。……ほら、行くぞ」
あい「うん……」

抱きしめられた肩のあたり、大きな手がのせられた感覚が残ってしまうあい。
その腕の感覚のドキドキと、やはり先走ってみんなを巻き込んでしまった罪悪感で無言で歩いているあいを見下ろして、何か言いたげな顔をする大河。
大河は、「やらかし」を気にしているのだろうと、あいを気にかけている。

大河「……まあ、心配になるのはわかる。……ロウはいつも優しすぎるし、いいやつだから……先に気を回さないとすぐ我慢とかするタチだ」
あい「え……?」
あい(今……元気づけようとしてくれてるの?)
大河「だから……まあ、そんな落ち込むんじゃねえよ」
あい「……うん、ありがとう」

こんなことを言われるとは思わず、胸のあたりが温かくなる感覚を覚えるあい。
あい(……大河さんの隣にいると……、大声はあんまり好きじゃないけど、気は張らないんだよな)

あい「雑でいい、ってことかなー」
大河「何がだよ」
あい「別に!」

ふと、クレープの屋台トラックが止まっているのを見るあい。思わずずっと目で追いながら歩いている。
大河が思わず漏らしたような笑い声をあげる。

大河「ははっ……お前、バレバレすぎねえ?」
あい「何が!?」
大河「……どれがいんだよ。アイスも一個までつけていいぞ」

大股で方向転換して、クレープ屋台の方へと歩いていく大河。
数歩歩いてから、その場で置いてけぼりになっているあいを振り返る。

大河「おら、行くぞ」
あい「え……うん!」



〇昼 公園

公園のベンチ、ふたりで並んでクレープを食べている。
目をきらきらにして生クリームのクレープにかじりつくあい。
その隣で、同じようにいちごや生クリームがのったクレープを大きな口でむしゃむしゃと食べている大河。


あい「……大河さん、甘いモノ好きなのちょっと意外」
大河「なんでだよ、別に良いだろ」
あい「悪いなんて言ってないもん! むしろ甘いモノを敬ってるからえらい」
大河「うやまう……???」

あいの言葉に首をかしげながら、また大きな口でクレープにかじりつく。
あいの手の中にあるものはまだまだ残っているが、大河のクレープはどんどん小さくなっていく。

あい「……意外、でいうとさ……大河さんとロウくんは、どうやって仲良しになったの?」
大河「……真面目なロウとオレじゃ釣り合わねえって言いてえのか?」
あい「別にそんなんじゃ……。違うの、本当。でもロウくん、中学のときはちょっといじめられてて……なんか男っぽい、タイプの人って……ロウくんの線の細い感じ、気に食わないって言ったりするから」

その言葉を聞いた大河、無言で残り少なくなったクレープを見つめる。
じっと考え込んでいる様子の大河を見て、あいも静かに続く言葉を待っている。

大河「そんな事言いやがるやつらがまともな奴らじゃねえのは確かだが、……オレは、……オレが警察官になったのは、ロウが勧めてくれたからだ。……荒れてた、っつーのは言ったと思うが、……そのどうしようもねえ荒れてるってやつを、ロウの言葉が変えてくれたんだ」
あい「……そうなんだ」

なんでもないように言いながら、凄く嬉しい気持ちになっている自分に気付くあい。

あい(……ロウくんについて、そんなこと言ってくれるとは思わなかった)
あい(なんか……厄介な同担、だけど……同志って気持ちにもなってるな……)

しみじみとしているあいの隣で、大河は聞かせる気もないような小声でぼそりとつぶやく。

大河「……だからこそ、ロウの大事なもんを守ってやりてえ、んだよ」
あい「なあに? 何か言った?」
大河「別に、なんも言ってねえよ!」

あいに向かって大声で言う大河。あいが口につけたままのクリームに気付く。
見つめられて不思議そうに見返すあいの顔に手を伸ばす。

あい(……何っ!? 大河さん、な、なにする気……)

ぎゅっと驚いて目を閉じてしまうあい。口元からくちびるに大河の指が触れる。

あい「!!!」
大河「……ついてんぞ、思いっきり」

指についたクリームを、当たり前みたいにぺろっと舌でなめとる大河。
その顔がものすごくセクシーでかっこよくて、ドキドキしてしまう。

あい(何、何、なんなの!? 男の人ってこういうの普通にするものなの!? ていうか大河さんって、こんなかっこよかったっけ……!?)

どんどん大河がきらきらして見えるようになってきたあい。
パニックになっている。

あい(クレープの味、もうわかんないよ~!)
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