君の音色に恋してる

4話

■結城家・洗面所・中(朝)
ジャージ姿でタオルを持って顔を洗っている真希。
真希(3日目にもなると慣れてくるな)
真希<私は今、天才バイオリニストの家に合宿に来ています>
真希<ちょっとしたアクシデントはあったものの、とっても平和です>
顔を上げ、鏡を見る真希。
背後に鬼のような顔をした結城るみ(40)が立っている。
真希「え!?!!?ぎゃあああああ!」
慌てふためく真希とるみ。
結城、中に入ってくる。
結城「どうした?って母さん!?」
真希「え、結城くんのお母さん!?」
るみ「あ、ははは…」
困ったように笑うるみ。

■同・ダイニング・中(朝)
ダイニングテーブルの上には空のカップ麺の容器。
るみ「何!?あんたたちカップ麺しか食べてないの?高校生なんだからしっかり食べなさい!早めに帰ってきて正解だったわ!」
容器をかき集め袋に入れる、るみ。
結城「母さん、洗面所で何してたの?」
るみ「帰ってきてシャワー浴びようと思ったら、お友達がいて感動しちゃって!」
真希「感動?ってかあれ感動してる顔だったの…」
るみ「遥、友達いないのよ!」
ニコニコと笑うるみ。
圧倒される真希、頭を抱える結城。
るみ「お友達連れてくるなんて何年ぶりかしら!えーっと、真希ちゃん、よね?」
るんるんとスキップしながら台所に消えていく、るみ。
真希「結城くんのお母さんキャラ濃いね…」
結城、ため息をつき、
結城「音高にいる女子たちを思い出せよ…」
真希「ああ…確かに…」
真希<豆知識:音高の女子たちは変な人が多い>
るみ、台所から顔を出す。
るみ「遥、牛乳買って来て!」
結城「え、俺?」
るみ「早く!」
結城「えー、練習したいのに…」
るみ「練習よりもあんたたちのご飯が先!」
結城「めんどくせえな…」
渋々ダイニングから出ていく結城。
真希(…養子だって言ってたけど、普通の親子なんだな)
ダイニングの扉が閉まる音。
るみ、台所から出てくる。
るみ「全く、可愛くないんだから…」
ため息をつく、るみ。
るみ「真希ちゃん」
真希、姿勢を直す。
真希「は、はい」
るみ「ちょっといいかしら、ここ座って?」
ダイニングテーブルを指差す、るみ。
真希とるみ、腰掛ける。
真希(えっと、そうだよね…親の不在時に女連れてきてって話だよね…)
るみ「真希ちゃん、ごめんね」
真希「すいません!」
るみ「え?」
真希「え?あ、いや、その…お母さまの不在時に上がりこんで…その、変なことは何も…」
るみ「あはは!そんなこと気にしてたの!いいのよ、年頃なんだし!それよりね、あの子、人に伴奏頼むような子じゃないのよ」
真希「そう、なんですか?」
るみ「昔から協調性のない子でね…わかるでしょう?小学生の頃なんて、授業聞かずに1日中楽譜開いて、しかも移調して写譜してたのよ…先生泣いてたわ…」
るみ、ため息をつく。苦笑いする真希。
るみ「何があったのかはわからないけど、あなたに伴奏をお願いしたことはきっとあの子なりに考えがあってだと思うの。申し訳ないんだけど付き合ってあげてね」
真希「…わかりました」
真希(結城は、暇そうだから私に伴奏を頼んだって言ってたよね…?)
首を傾げる真希。
真希「本当は親からお友達に頼むことではないと思うんだけど、あの子の本音は私も聞けた試しがないから」
寂しそうに笑うるみ。
真希「…結城は…音楽のことも家のことも好きだと思いますよ。最近関わるようになった私が言っても信憑性ないかもしれないんですけど…」

× × ×
(フラッシュ)
背もたれに頬杖をつき笑う結城の姿。
× × ×

真希「結城くんは、結城遥でいたいと言ってました。聞いたときはプレッシャーとかやばそうってしょうもないこと思ったんですけど…冷静に考えたら、それって、音楽が、この家が好きだから出てきた言葉なんだろうなって…そう、私は思います」
キョトンとした顔のるみ。
るみ「…そっか、そうね…そうよね」
るみ、笑顔で、
るみ「いやー、子供ってすごいわね、いつでも学んでばかりよ。さあ、この後も練習よね、ご飯作るからちょっと待っててね」
立ち上がる、るみ。
結城の声「ただいま」
ダイニングに入ってくる結城。
結城「はい、牛乳」
るみ「ありがと、できるまで練習してきたら?」
結城「そうする」
真希、頷く。
るみ「ありがとね、真希ちゃん」
真希「はい……?」
結城、首を傾げる。

■同・台所・中(朝)
包丁で野菜を切る、るみ。
結城の声「母さんと何話したの?」
真希の声「いや、別に…あ、結城くんの子供の頃の話とか?」
結城の声「え!?」
るみ、機嫌良さそうに鼻歌を歌っている。

■都立芸術高等学校・練習室・外(夜)
『練習室』と書かれた札。ピアノの音が漏れている。

■都立芸術高等学校・練習室(夜)
ピアノを弾く、梨々香。
扉をノックする音。
警備員の声「もうすぐ最終下校時刻なので出る準備してくださいね」
梨々香、ピアノを弾く手を止める。

× × ×
(フラッシュ)
弦を持った結城が真希の方を指している姿。
練習室でピアノのレッスンを結城から受けている真希の姿。
× × ×

梨々香、立ち上がり楽譜を鞄の中にしまう。
梨々香(小瀬真希。今まで気にしたことすらなかったくらい全然パッとしない女だけど…あの結城くんが依頼するくらいだから実はすごいのかと思って練習室覗いたら…ピアノの譜読みのレッスンからやってるとか何あれ…)
鞄のチャックを勢いよく閉める梨々香。表情は見えない。
梨々香「ムカつく」
鞄を背負い外に出ていく梨々香。
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