純愛トラップ  ー幼馴染の聖くんの裏の顔ー【シナリオ5話まで公開】

第二話 お世話ってこんなことじゃない


広いリビングのアイランドキッチン。そこで立ちすくむ渚を、カウンターを挟んで聖が見ている。
聖;「渚、これなに?」
渚:「これは……しょうが焼き?」
フライパンの中は黒焦げの肉。
回想
学校では変わらず知らないふりをしている二人。しかしそこに渚のスマホが鳴る。
メッセージ:今日夕食作っておいて。仕事だから
クラスの女子:「今日、聖くん休みなんだって」「仕事かな~」など
渚;(食べて来ればいいのに)
ため息交じりに返事をせずにスマホを閉じる。
放課後
渚;「ねえ、梨香、今日帰り何か食べて行こう」
パチンと手を合わせて渚に頭を下げる梨香。
梨香;「ごめん、今日、バイト!」
渚;「そっか、了解!」
渚:(予定が入れば、聖のところに行かない理由があったのにな)
下駄箱で靴に履き替えながら、ため息を付く渚。そこにまたもやスマホが音を立てる。
聖からのメッセージ:【逃げるなよ、生姜焼き食いたい】
自分の行動を読まれているようなメッセージに、ため息をつく渚。
仕方なくあの日、一度いったマンションに向かう。渚の自宅からそれほど離れていないが、都内のタワーマンション。
スーパーで買い物済み。
渚:(聖の実家エリートだもんな……)
コンシェルジュの女に笑みを浮かべて、ドキドキしながら通り過ぎる。
預かっていた鍵でそーっと中に入る渚。きょろきょろと部屋を見回す。
広い玄関、そして長い廊下にはいくつもの扉。その向こうにリビングに繋がる大きな扉がある。
リビングは広く開放的で、高い天井、大きな窓、青い空。広いリビングはおしゃれなソファーセット、ダイニングテーブル、アイランドのキッチン。
それらを見て大きく息を吐く渚。
買ってきたものをキッチンに出して、スマホを手にして料理アプリを開く。
それをジッと睨みつける様に何度も見る渚。
渚;「どうして生姜焼きに玉ねぎがいるのよ……」
慣れない手つきで玉ねぎを切る渚。思った以上に時間がかかっている。
聖:「おい! おい!」
渚:「痛っ」
集中しすぎていて、聖がかえってきていることに気づいていなかった渚。
驚きすぎて、少し指を切る。
聖:「見せろ!」
後ろから抱きしめるような形で渚の手を取り、そのまま自分の口に持っていく。
渚:「ッ」
聖:「深くないな。気をつけろよ」
その行為にドキドキとして、真っ赤になる渚。
渚:「大丈夫だから、座ってて」
そんな渚に聖は無言でリビングに向かい、箱の中から絆創膏を持ってくる。
聖:「手出せよ」
少し痛む指に、渚はおとなしく聖に指を差し出す。視線は俯いたまま。
器用に絆創膏を巻く聖。
渚:「ありがとう」
聖:「やっぱり、渚みたいに男勝りなやつは、料理は苦手だよな」
クスクスと笑う聖に、ムッとする渚。
渚:「うるさい! 早く着替えてきなさいよ」
渚の言葉に制服のネクタイを抜きながらリビングを出ていく聖。
渚:(どうせ昔から女子力なんて高くないよ……。知ってるし)
渚:(焦げ臭い?)
ぼんやりとしていた渚だったが、フライパンの中で真っ黒になっている肉に気づく。
ゆっくりと火を消して、泣きたい気持ちになってくる。
渚・(聖の言う通りだよ。昔からどうせかわいくないし、女らしくもない)
回想終了
聖;「渚、ピザでいい?」
渚:「え?」
また呆れてしまっているとおもっていたが、私服に着替えた聖はまったく気にしていないようで、リラックスしたように、スマホを見ている。
聖:「いや、明日の撮影にピザはまずいかな」
渚;「ごめん、役立たずで」
ひとり暮らしで仕事と学業との両立が大変だから手伝いに来たのに、これじゃあいる意味がないと落ち込む渚。
聖;「は? 何言ってんの? 誰でも失敗なんてあるだろ? あっ、イタリアンならサラダとか……」
考えている聖をジッとキッチンから見つめる渚。
渚:「ちゃんと、身体のこと考えてるんだ」
聖:「んー?」
とくに興味がなさそうに返事をした後、頭を上げて渚を見る。真面目な瞳の渚。それにまっすぐに見つめ返す聖。
聖:「俺の勝手で日本に帰ってきたし、絶対にモデルでも成功したいし、欲しものは手に入れる」
自信に満ちたその表情をただ見つめる渚。
渚:(ちゃんと考えてるんだ……聖)
聖:「努力はしないとな」
渚;「私じゃ役に立たないね。帰る」
聖:「渚! 待て」
キッチンか急いで出ようとした渚だったが、付け合わせにと買っていたサラダの容器を倒してしまう。
キッチンに舞い上がるキャベツやトマト。それが渚の制服にも飛ぶ。
渚:(もう泣きたい……。どうしてこんなにうまくできないの、私)
汚れた制服を泣きそうになりながら見つめる渚。そんな渚の手を引いて歩かせる聖。
何も言えずに渚は着いていく。
聖:「とりあえず着替えろよ」
そこにあったスエットを手渡す聖。何も言わず受け取る渚。
広い洗面台 洗濯機などが置いてある。
制服が汚れたままだと困る渚は、聖の大きな服を着る。ワンピースみたいになっている。
洗面所でトマトの汚れを落とす。
聖:「渚、着替え終わった?」
渚:「うん」
洗面所で作業をしたまま答えた渚の元に、扉が相手聖が入ってくる。
ワンピース姿の渚にドキッとする聖。そんな自分の表情が鏡に映っていて、慌ててごまかすように表情を作る。
聖;「渚が着るとワンピースみたいだな。汚れおちそう?」
渚;「うん、大丈夫そう。干しておいていい?」
聖:「ああ」
ハンガーを借りて、背伸びをして上のバーに引っ掛ける渚。太ももが見える。
聖;(そんな際どい恰好を俺の前でできるとか、俺の事なんだと思ってるんだよ)
渚の天然の無防備さに苛立ちが募る聖。
聖:「渚さ、お前いつも周りにいる男たちにもこんなことしてるの?」
渚:「え? 何が?」
意味が解らず振り返る渚。
聖;「一人暮らしの男の家に入って、そんな隙見せてるかってこと」
渚;「は? 隙ってなに……」
聖:「下、あったろ?」
洗濯機の上に置かれた自分が渡した服を指さす聖。ようやくその意味が分かった渚が、それを手にして、真っ赤になるがギュッとそれを胸の前で抱きしめて小声で答える。
渚:「だって落ちちゃうんだもん、紐締めても」
聖;(ウエストそんなに細いのか……)
頭を抱える聖。
聖;「勝手にウーバー頼んだからな」
渚;「聖! もう私帰るよ!」
渚:(役に立たないのにいても仕方ないじゃない)
聖:「そんな恰好で電車乗るのか、バカ!」
真剣に怒った聖に、シュンとする渚。
渚:「ごめん……」
泣きそうになる渚に心底あせる聖。
聖:「悪い。俺が頼んできてもらってるんだから、気にするな」
渚:「お母さんが言ったから仕方なくでしょ? 今まで学校でも完全に無視してたし、私とかかわりたくなかったんだよね。昔、私が聖のこといじめたから……。だから仕返しにあんな……」
キスとは言えず口ごもった渚に、聖もキスのことを言ってると悟り、視線を彷徨わせる。
聖:「あー、それは違うから」
脱衣所の中に立ちすくむ渚。その外の廊下に座り込む聖。髪をかき上げて言葉を探す。
聖:(お前に会うために日本に戻って同じ高校に入ったなんて、絶対にバレたくない。声をかけなかったのも、今、あんなことしたのも……。言えないよな……)
座り込んで考え込む聖に不安になる渚。
渚:(小さい頃聖のことが大好きだったし、いじめてる気なんてなかった。そう言えば許してくる?)
ふたりの交錯する思い。立ち上がって渚を見下ろす聖。複雑な表所のまま視線が交わる。
聖:「渚。俺は……」
何を言われるのかと思った渚だったが、そこに、インターフォンが鳴る。
ウーバーイーツがくる。話が途切れる。
渚;(なんなのよ?)

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