私を包む,不器用で甘い溺愛。

榛名side

         榛名side




俺の,たった一人の母さんは。

俺に良く似た顔立ちで,それでもちゃんと女性な。

とても綺麗なひとだった。

優しくて,快活で,俺の前でも構わず父親といちゃつくような,そんな平和なひとだった。

でも,近所で昔の同級生と逢ったと家族に話したあと,1週間も経たない内になくなった。

本当に可哀想だ。

母さんは何も悪くない。

悪いわけがない。

母さんはただ綺麗で。

その笑顔も性格も誰より魅力的で。

母さんはただ,それだけだったんだ。

なのにそのたまたま遭遇した同級生とやらは,俺の,俺達家族の母さんの事が好きだったらしく。

結婚しているのなんて当たり前なのに,お互いの近状報告ついでに溢した母さんの言葉が許せなかったと言う。

それを理由に,数日後。

通り魔的に,母さんの脇腹を刺した。

それも,3度も。

もちろんすぐに捕まった。

だからこの話も,俺は全て知っている。

母さんの死の報告のあと,初めてこの話を聞いたとき,俺も父親も狂ったように恨んだ。

恨み,深く悲しみ,母さんの死を誰より悼んだ。

< 66 / 119 >

この作品をシェア

pagetop