推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ

甘い罠

 聞き間違いかと思ったら、専務は自分のスマホを取り出した。
「教えて下さい。また会いたいから」当たり前のようにそう言った。
「えっ?いえ……私のですか?」
「はい。咲月さんの連絡先です。スマホ貸して下さい。ロック解除してね」
 専務が手を出すので、私は回らない頭で自分のスマホを取り出し、言われた通りにロックを解除してテーブルに置いた。すると専務はいとも簡単に二つのスマホを操作してLINEを交換していた。何でしょう?この手慣れた流れるような動きは。
「おともだちですよ」
「お、とも、だち?」日本語のわからない宇宙人のような声を出す私。おともだち?専務と私が?
「いつでも会えますね」と言われて呼吸を忘れてしまった。推しと繋がるなんて、絶対恐れ多くてありえませんっ!
「いや、ダメです専務。それはダメです」慌てて自分のスマホを奪い返す私だけど、もうしっかり登録してある。
「なぜですか?」専務は小首を傾げて私に聞く。
 だからその顔が反則なんですっ!そんな悲しそうな顔しないで下さいっ!そんな甘えた寂しそうな顔をされると何も言えないです。ずるいー。ためらっていると専務は頬杖を付きながら私をじっと見つめた。あぁなんて澄んだ綺麗な目をしているのだろう。引き込まれてしまいそう。その目が私に魔法をかける。
「こんな、情けない失恋話をしたのは咲月さんが初めてです」
「はい」
「かわいそうな僕はまだ心の傷が癒えません。まだ落ち込んで傷ついてます。彼女を思い出すと泣きそうになります」
「はい」こっちも泣きそうです。
「かわいそうでしょう?だから、この事実を唯一知っている咲月さんに僕をなぐさめて欲しいんです」
「はい……えっ?」なんか、話の流れが違ってきてません?
「あなたにはその義務があります」
 専務、それは脅迫と言います。
 さーっと血の気が引いてきて、何か言葉を出そうにも地上に出た金魚のようにパクパクするしかない私だった。
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