推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ

理想と現実とは

 結婚って言いました?
 私の聞き間違いとか?血の方の血痕ではない……よね。
 専務はいつものニッコリ笑顔で私を見ている。
「サイズが合ってよかった。どうです?少し緩いかな?」
 クルクルと指輪を回してチェックしている。これは現実なのだろうか。
「直せるので大丈夫ですよ。式はいつにします?希望はありますか?」
「あの……専務」
「はい」
「これは……ダメです」私が言うと「デザインが気に入らない?」と言ってくる。
 推しと会話が通じない。
「いえデザインは完璧です」
 シンプルなデザインに一粒ダイヤが輝いている。小さいけどクオリティが高く、輝きが半端ない。素人の私にも間違いなく高いのがわかる。
「何が不満なのかわかりません」
 その同情を買うような悲しい顔を見てはいけない。
「いきなり結婚はダメです」
「どうして?」
 どうして……って。私は困った顔で言葉を探す。
「まだ、私は専務と数えるほどしか会ってなくて」
「これから増やしましょう」
「お互いに知らないことがいっぱいあります」
「これから知りましょう」
「私は性格がマイナス思考で、考え過ぎるタイプで、何も面白みがなくて、節約志向も高く、ダメな女なんです」
 あらためて自分を説明すると悲しくなる。
 専務は楽しそうな顔で私をジッと見ている。
「価値観も違うと思います。だから……」
「だから?」
「嫌われて、捨てられるのが怖いんです。専務ならお見合いで、同じ価値観である、お金持ちの素敵なお嬢様と知り合う方が、会社の為にもなると思います。ご両親も周りもそれを願ってると思います」素直な一言が出てしまった。言葉にするとつらい。
「咲月さん」
「はい」
「僕が嫌いですか?」
「大好きです」
「僕も咲月さんが大好きです」
 そっとその胸に抱かれる。
< 54 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop