茜空を抱いて
あなたを胸に
***



それでも時間は止まってくれない。
4月になり、私は大学生になった。


私が進んだのは、総合大学のデザイン学部。
実技や専門科目のない学力勝負の狭き門を、ユウのおかげで突破できた。




大学のオリエンテーションが終わった夕方、電車に乗ってアパートに帰ってくる。その日も空は、茜色。
あなたを、思い出した。



『………今、何してるんだろ、』



ぼんやり呟いてみても、この街にもうユウはいない。


本当は、報告したかった。
デザインの学部に進んだよ、って。私はそこで、アクセサリーデザインの勉強をするんだよ、って。


ポケットには、今日も茜色のイヤリング。
これが、全ての始まりだった。
あの日から私にとって、アクセサリーはときめくものになった。



全部全部、ユウのおかげだった。



あなたを失った私の喪失感は、大きい。
ふとした瞬間に泣きたくなるし、まだ駅や街であなたを探してしまうことだってある。
夕日をまたふたりで見たいなんて、叶わない夢も抱き続けている。



だけどその度に、私はユウからの手紙を何度も読んだ。
毎回鼻の奥がつんとするけれど、それでも何度だって読んだ。



そしてその習慣が、私を変え始めていた。



ユウのくれた言葉は、まだここにある。
私の中で生き続けている。
洋服の上から、ポケットの中のイヤリングに触れる。



もっと、大人になろう。
あなたが後悔するくらいの素敵な女性になろう。
そしてまた会えたら、その時は。



空を見上げる、あなたを想う。
私は強くひとり、心に誓った。


< 35 / 53 >

この作品をシェア

pagetop