茜空を抱いて
心がまた息をして
***



それから、私とユウは頻繁に会うようになった。


仕事終わりも、休みの日も。
呼ばれた日も、そうじゃない日も。
私はあなたに寄り添い、同じ場所にいることを諦めなかった。


どうやらユウは、あの頃は本当に強がっていたらしい。

大人になった私と向き合うあなたは何よりも繊細で、少しつつけば壊れてしまいそうなほどで。
私はその透き通ったガラス細工のような心を壊さないように扱おうと、暖かい想いだけを込める。



そしてユウからもらったたくさんの言葉は、ユウ自身をも救うことになった。

私と探そう、私と見つけよう。
虚ろで過去ばかりに焦点を当てるその瞳に、私は受け取ってきた言葉をそのまま投げかけた。
その度に「大きくなったね」と困り顔で笑うユウ。
だけどそのうち、今の私からの声を受け取り、身を委ねてくれるようになった。




「俺は、自分の弱いところを他の人にどうしても見せたくなくてね」



並んで街を歩いていたある週末、ため息のようにするりと吐き出されたあなたの言葉。
時折触れ合う指先が少し熱を持ち始めたこの頃、あなたは前のような穏やかな表情を取り戻しつつあった。



「人前で泣くのも、怒ったりすることもしたくない。できることなら感情を表にせずに過ごしたいと思ってた」

『………過去形だね』

「あ、気がついた」



いつかのあなたのように。
微かな変化を帯びた言葉遣いに反応を示せば、あなたは小さな花が咲いたみたいに、ささやかに微笑みを溢す。



「アミには、話しちゃうんだ」

「君があまりに魅力的だから、あまりに柔らかく居てくれるから。俺はついつい話しちゃう」



ごめんね、と眉毛を下げて笑ったユウ。
眼鏡を押し上げる細すぎる指先ですら、今は愛おしくてしょうがない。

だってそれ、まさに私があなたに思っていたことだから。



『………私もユウに対して、おんなじような気持ち、感じてたよ』

「……それ、本当に?俺に?」

『うん。ユウが優しいから、いつだって包み込んでくれるから、私なんでも話してたじゃん』



そうだったんだ、と、あなたはレンズの奥の目を細める。
あの夕日たちを、あの頃のふたりきりの温度を思い出そうとしているように見えた。



「嬉しいよ、そう思っててくれて」

『私も嬉しい。ユウが同じ気持ちで』



やっと私に降りてくる、そして重なる視線。
どちらからともなく、口角を上げて喜びを忍ばせる。

やがて日が暮れる、空の端が茜色に染まる。



「………俺、もう自分のこと隠さない。ちゃんと言葉にしたい、俺が思ってること」



夜の入り口で、あなたは囁く。
肯定の意味を込めて、私はそっとその肩に手を置く。
するとあなたが、ふわりと息を吐いた。



「……だから会わなきゃいけない、あいつに」


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