茜空を抱いて
心配性
***



「こんばんは」

『………なんで来んの』



また母親と喧嘩をした夕方に空を見上げたくなって訪れた、1番上の踊り場。
しばらく最上段に座り込んでいるとまたしても、高村がぼんやりと現れた。



「となり座ってもいいかな」

『だからなんで来んのってば』

「同じ夕日、見たいなと思って」



この間、泣くところを見られたばかりで居心地が悪い。
突っぱねるような私の言葉に意味のわからない返答をしたまま、彼は穏やかに微笑んでいる。



「ここ景色いいよね、俺もたまにこうやって夕日見にくる」

『………へえ』



気のない反応にも構わず、私のとなり、ひんやりとした階段に腰を下ろした高村。
その瞳は、まっすぐに夕日を見ていた。



「あ、ねえ名前、教えてくれる?」

『え?』

「君の名前。まだ聴けてなかったから」

『………愛珠』

「ん、アミ?」

『………あー、そう。それ』



自分の名前が嫌で、ぼそぼそと口にすれば聞き間違える高村。だけど訂正するのも面倒で、適当に頷く。
どうせ、長い付き合いなんかにするつもりもないし。



「アミ、よし覚えた」

『別に覚えなくてもいいけどね』

「そんな寂しいこと言わないで。じゃあ俺の名前これ。読める?」



その時、彼が指差したのはその手に握られていた、小さな郵便物の宛名欄。
″高村優″。さすがに馬鹿にされ過ぎている。



『いや読めるよ。タカムラユウ、でしょ』

「………そう思う?」

『何その微妙な反応、ムカつく』

「ごめんごめん」



睨みつけると、穏やかに私を見ていた眼差しにぶつかる。
いつもよりも少し近い、となり同士。

この人意外と鼻が高い、なんて、そんなことに気がついた夕暮れの一コマ。



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