とある蛇の話
いじめっ子の心って?
「………んで、いじめはなくなったのか?」
「うん、もう一ミリもないんだよ。腫れ物扱いはされるけれど……随分学校には行きやすくなった」
絶句する理央くんを横目に、夏目さんが作ってくれたサンドイッチを食べる。
朝ごはんが、毎日これだったら食べやすいなんて口が裂けても言えないけれど。
「その後お前ら、どうやって再会したんだよ?」
「皆がどよめいて、雪崩れるように帰った時には変身は解けていたから、草むらから見つけ出して帰ってきた」
「あらー。そんな事があったのね。良かったー。遥が身軽になって」
「いやいや………腫れ物扱いされてるんだろ?それって……解決はしてないんじゃ………」
「理央はいちいち口出ししないでちょうだい!!やっと、いじめから一歩進んで、平和的になったんだから」
口をパクパクと動かし、どうゆう表情を浮かべているのかも想像できてない理央くんはため息をついた。
「俺だって……遥の事が心配だから、バイトだってなんだって、考えてるっつーの……」
そんな苦言は、僕の耳にしか届かないらしく「たまごサンド作ったから、もっと食べなきゃ!!三人とも!!」とはしゃぐ夏目さん。
「ねぇ、あのあとーー漣くんと何か話した?」
不意に気になって、ご飯を食べ終わった頃だろう。
学校に行く準備をしてる遥くんに、尋ねた。
ボロボロのランドセルを間近に見たときは、一瞬言葉に詰まって、しゃべらなかったほうがよかったと後悔する。
「えっとね……実は少しだけ話したんだ。あの翌日、朝の登校で一緒になってね」
「何かされなかった!?」
「別に、あんな事件があったからね。殺意を持って接しに来ることはなかったよ。だけどね、話を聞いてみるとーー前々から僕に引け目を持っていたみたい」
「……引け目?」
「何かに熱中する凄みみたいなのが、怖かったってーー。漣くんは元々、家庭環境が悪くて、親にずーっと殴られて生活してたみたい。それで強くならなきゃ、人間は生きていける資格はないって思い込んでたみたいで………。だからこそ、弱すぎても生きていける僕が未知の存在で怖かったみたい」
「それで……イジメてきたっていうの?」
「そういう人もいるだろうね」
ボロボロになった、ランドセルの深い傷に絆創膏を貼り付けた遥くん。
「そして謝ってきたよ。「お前がナイフを持って、反撃するかと思ったが、しないお前を見てーー本当の強さってのはなんなのか分かった気がする。自分のやったことが、愚かだったって今頃気づいた」って」
「それでどうしたの?」
「表面上だけ許したよ。でも心から許せるってなるとーー」
ランドセルになった絆創膏が剥がれた。
「許せない。その一択だよね……。だけど、許せるように時間をかけたいと思う。この問題は」
と力無く遥くんは笑う。