元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する
(無難に公爵令嬢辺りを選んでおけば良いのに)


 誰からも文句の出づらい相手、と考えれば、身分の高い令嬢が一番だ。殿下の取り巻きの中にも、そういう身分の女性がいたはずで。けれど、昨日まで逃げ回っていたところを見ると、どうやらまだお相手は決まっていないらしい。


(どうする気なんだろう? もう後夜祭当日なのに)


 生徒会長である殿下が後夜祭をパスすることは不可能だ。在校生の八割が貴族という影響もあり、後夜祭はダンスで締められる。体面を考えたら、彼にパートナーが不在っていうのは無理だろう。そういうことを考えると、胸の辺りがモヤモヤする。
 

「忙しそうだね、ザラ」


 そんなわたしに声を掛けてきたのは、幼馴染のオースティンだった。

 学園祭の最終日だけあって、生徒会の面々は忙しく学園内を駆け回っている。わたしも魔法で伝令を飛ばしつつ、あちこち動き回っていた。


「そうなの。殿下の人使いが荒くて」


 こんなこと、貴族科の連中に聞かれたら問題だけど、相手はオースティンだ。声を潜めてそう伝えると、オースティンは小さく笑いながら、わたしの頭を撫でた。


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