元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する

5.幸せの定義

「ザラは? まだ見つからないのか?」

「はい。何分この人出ですし、魔力を追うのも難しいようで」


 腹心であるレオンの言葉に、エルヴィスは顔を顰める。

 普段ならば、エルヴィスはどんなに人が多くともザラの魔力を追うことができる。それなのに、今日はどういうことか、彼女の魔力を追えなかった。

 学園の中にいない、と考えられなくもないが、真面目なザラのこと。職務を途中で放棄するとは考えづらい。

 気になることはそれだけではなかった。

 数千に及ぶ人や魔力に紛れて香る、火薬の臭い。もしもザラが行方不明になっていなかったら、巧妙に隠されたそれらの存在に気づくことは無かっただろう。


「爆弾探しと解体作業の方は? 間に合いそうか?」

「はい。殿下の指示通り、魔術科の生徒と教師を総動員して当たっています。未だ行方の分からない数名が首謀者でしょう」


 側近の一人が手渡したメモに目を通し、エルヴィスは顔を顰める。そこにはザラの幼馴染の名前も記されていた。


(無事だろうか)


 ザラが今回の事件に関わっていることはほぼ間違いない。
 あんなにも自分を平凡から遠ざけるものを嫌っていたザラだ。自ら首を突っ込んだのか、それともたまたま巻き込まれたのかは定かではないが、苦しんでいることは間違いない。

 エルヴィスは完璧な仮面の下に、沸々と湧き上がる激情を隠していた。


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