元傾国の悪女は、平凡な今世を熱望する

6.さよなら、ありがとう

「なぁ……なんでそんなに怒ってんの?」

「そんなの、考えなくても分かると思いますけど」


 殿下の手を取りやって来た後夜祭。国王陛下の挨拶も終わり、ロマンティックな音楽が流れ出す中、わたしは未だに殿下の手から逃れられていない。


「早く手を放してください」


 生徒会長であり、この国の第二王子である殿下がファーストダンスを踊ることは間違いない。このままでは自動的に、わたしが殿下のお相手になってしまう。既に周りの注目はこちらに集まって来ていて、心臓が嫌な音を立てて鳴り響いていた。


「俺が拒否するって分かってて、そういうこと言う?」


 殿下は拗ねたような照れたような表情を浮かべ、わたしのことを真っ直ぐに見つめている。暗闇の中でも分かる真っ赤な頬が、こちらまでうつってしまいそうだった。


「……わたし、令嬢方からめっちゃ袋叩きにあっちゃいますよ」


 殿下のパートナーに選ばれなかった令嬢がわたしを嫉むことは避けられない。殿下の良心に届けばいいと思ったけれど、殿下はクスクス笑いながら首を横に振った。


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