laundry
雨のlaundry
突然冷たい雨が降ってきて、ジョーは近くにあったコインランドリーに駆け込んだ。

俄雨だと思ってコインランドリーの古びた椅子に座る。
自販機のコーヒーを買って少し軋む音がするその椅子でこの雨が止むのを待つことにした。

深夜のガランとした店内で一つだけガラガラと動いている洗濯機に目が止まる。

洗濯機の横の椅子にピンク色の派手なジャージを着た髪の長いノーメイクの女が座っていた。

スッピンでもなかなかの美人だとジョーはそう思って彼女に視線を送る。

それに気がついたように彼女もこちらをそっと見た。

そして彼女に近寄って話しかけてみる事にした。

要するに友達になろうと思ったのである。
そしてあわよくば深い関係になれればもっと良いかなと思った。

「こんな夜中に洗濯?」

そんな風に彼女に気軽に声をかけたのが全ての始まりだった。

そしてそれがこの彼女にとってとても重大な出逢いになることを今はまだお互いに知らなかった。

「お兄さんは雨宿り?」

「うん、結構降ってきたから少しだけ待たせてもらおうと思って。」

「あー、私も傘無いんだよね。
すぐ止むかな?」

「お姉さんお酒売ってる人でしょ?」

「あー、わかります?

そこのキャバクラで働いてるんだ。
よかったら遊びに来て。」

こんなとこで営業かよって思ったけど
彼女があまりにタイプだったからジョーは笑みを浮かべて頷いた。

「お兄さんもこっち系の人?」

「オレは…そこのバーでシェイカー降ってる。」

「あー、あそこ?
結構評判いいよ。
イケメンバーテンダーがいるってお店の子が言ってた。
あ、もしかしてお兄さんのこと?」

「え?オレ?どうかな?」

「フフッ否定しないんだ。」

ジョーは自分がそう言われてることを知っていたが、もちろん知らないフリをする。

イケメンなんて肩書はジョーにとってはそれほど自慢にもならない。
そんなことで喜ぶ若さなんてもう持ち合わせてなかった。

「お姉さん、源氏名なんて言うの?
今度指名してあげる。」

「え?本当に来るー?」

「行くよ。お姉さんと酒飲みながら話したらもっと楽しそうだから。」

「あー、今名刺持ってないや。
モモって名前で指名して。」

「モモちゃんね。わかった。」

「軽いな。本当に来てくれるー?」

「その代わりお姉さんもウチに来て。」

その時、乾燥が終わって彼女は洗濯物を大きな洗濯機から出してたたみ始めた。

「手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。」

彼女のレースのついた小さめの生地の下着がジョーの目に入る。

「エロいの付けてんね。」

これは魅せる男がいるんだろうとジョーは経験から簡単に推測する。

それでもジョーは口説くのをやめたりしない。

狙った女の子はほとんど自分の手にして来た。

もはや恋愛はゲームと化してた。

「ちょっとー!見ないでよ!」

彼女は大きな声で笑って急いでそれを畳んでランドリーバックにしまった。

「雨、止まねーなぁ。」

先ほどよりもっと強い音をたてて雨は降り続いている。

「俄雨じゃないのかよ。」

「あ、一本忘れ物の傘があるかも。」

入り口付近の傘立てに大きな透明のビニール傘が一本だけ残されているのが見えた。

「お、使えるかな?」

ジョーがそれを開いてみると少し骨が曲がってはいるが充分に使えそうだった。

「家どこ?この近所でしょ?送ってくよ。」

「え?いいよ。すぐそこだから。
お兄さん使って。」

案の定断って来たがそこで諦めるほど弱気ではない。

女というのは一度は断る生き物だと思ってる。

そこを押すか押さないかで運命は変わる。

「いや、まだ結構降ってるしせっかく洗った洗濯物がまた濡れちゃうよ。」

洗ったばかりの洗濯物が雨に濡れるということは、今の彼女にとっては重要な事である。

「あー…じゃあお言葉に甘えて。」

ジョーは心の中でガッツポーズをした。

そして彼女と洗濯物が濡れないように傘をさして彼女の部屋へと向かう。

「一人暮らし?」

「え?まぁ。」

明らかに彼女が少し身構えたのがわかった。

男と棲んでない事がわかると期待値が上がるけど、ここであからさまに態度に表すのは絶対に良くない。

「いや、変なこと考えてないよ。」

「変なことって何?」

そう言って笑った彼女はあまりに可愛かった。

ここからが勝負だ。

「男とかいないの?」

「え?何でそんなこと聞くの?」

「いや、知りたいでしょ。フツーに。
だってお姉さん可愛いし、また逢いたいなって思ったから。」

彼女はランドリーバッグを恥ずかしそうに抱きしめて、ジョーから視線を逸らした。

「あ、引いた?
オレ、軽いやつって思われてるよね?
でも、こんなことしょっちゅう言ってるわけじゃないから。」

「本当かな?なんか手慣れてるって感じ。」

まだ若そうだけどいくつくらいだろう?
そんな事を考えながら逆にジョーは彼女への視線を外せずにいる。

もっと話していたかったが、彼女の部屋は本当に歩いてすぐだった。

「ここで大丈夫。」

「うん。」

思ったより時間が短か過ぎて今日はゲームオーバーだ。

それでも諦めずに次へ繋こうと思った。

名残惜しそうにジョーは彼女を部屋の前まで送ると名刺を渡した。

「こういうものです。
良かったら仕事上がりにでも飲みに来て。」

営業のフリをして少し彼女の警戒を解く。

そしてジョーの思惑通りに彼女は少し肩の力を抜いた。

「うん。
もし良かったらウチの店にも来て。
あ、名刺取ってくるからちょっと待ってて。」

そう言うと彼女はドアを開けて中に入った。

隙を作ったとジョーは思った。

ジョーはドアに手をかけて部屋の中を少し見回す。

女の子らしい可愛い雰囲気でいい匂いがした。

「これ、名刺。」

彼女はジョーの視線に気付き、慌てて部屋を隠そうとドアに手をかけた。

そんなことしたって既に手遅れだ。

もうひと押ししてみたくなった。

「うん…ね、流れでお茶とかご馳走してくんないの?」

「くんない。
部屋には上げない。」

そりゃそんな簡単じゃ口説き甲斐もないってモノだ。

そして最後に叩かれる覚悟で大きく出る事にした。

「じゃあキスだけ。」

そう言ってジョーがドアにかけた彼女の手の上に自分の手を重ねて、少しビックリした彼女の唇をアッサリと奪った。

「おやすみ。またね。」

去り際は余韻を残して素早く去るのがジョーの口説きの鉄則だ。

一方、彼女は部屋のドアが閉まってもしばらくそこを動けなかった。

人差し指で自分の唇に触れる。

手慣れた感じだったけど悪い気はしなかった。

同時に今起こったことが理解できないほど胸が高鳴ってるのに気がついた。

ジョーの第一段階は成功したようだった。


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