昭和式スパルタ塾行き回避すべく、通信教育教材頼んだら二次元で三次元イケメン&キュートな男の子達がついてきた
まもなく日付が変わる頃、
「ショウコちゃん、スペル間違えてる!」
「いったたたぁ、ほっ、ほっぺたそんなに強くつねらないで」
 時折、サムから体罰を受けながら。
「昇子お姉ちゃん、ぼく、もう眠いから、寝るねー」
「わらわも眠いので、寝ます。子の刻以降に起きているのは辛いです。おやすみなさい」
「オレっちも眠くなって来たぜ。夜行性じゃないからな。ショウコイル、あとは頑張ってねー」
 睡魔に負けた流有十、伊呂波、摩偶真は自分のテキストの中へと飛び込み就寝。

0時二〇分頃。
「昇子君、夏にぴったりの夜食だぜ。元気が出るぜ」
 英語の特訓中、玲音が学習机の上に、あるメニューを置いてくれた。
 タイ名物、トムヤムクンだった。
「ありがとう玲音くん。これも社会科の資料集から取り出したんだね」
「その通りだ。食べ物だって取り出せるんだぜ」
「ショウコちゃん、これ食べてLet‘s breathe for a moment.」
「じゃあ、いただきます」 
 昇子は一旦シャーペンを置き、お皿に浸されてあったレンゲを手に取る。そしてお汁と具をいっしょに掬って口に運び入れた。
「かっ、からぁー」
 瞬間、両目を×にし舌をぺろりと出す。
「昇子君、辛いのは苦手か?」
「うん」
「すまねえ。ちょっと待ってろ」
 玲音はトムヤムクンを資料集に戻し、代わりにタイ名物のデザートを取り出した。
「ありがとう」
 机の上に置かれると、昇子は備え付けのスプーンで掬いお口に運んでいく。
「美味しい?」
 サムがにこやかな表情で尋ねると、
「うん。けっこう甘くて」
 昇子は笑みを浮かべながら答える。幸せそうに全て平らげた。
「さあショウコちゃん、もう少しだけ頑張ろう。毎日コツコツ努力すれば、一時凌ぎではない本当のacademic abilityが身に付くからね」
 サムはウィンクする。
「分かったよ、サムくん。私、一生懸命頑張るから」
 やる気が引き立った昇子は、再びシャープペンシルを手に取った。
「ショウコちゃぁん、助動詞willの後ろは動詞の原形がくるって決まり、もう忘れたの?」
「うぎゃっ!」
 その後も何度かサムに腹部をグーで殴られるなどの体罰を受けながら、英語の今日の分を学習し終えた頃には午前一時過ぎ。昇子はようやく寝させてもらえた。
まさか、体罰されるなんて思いもしなかったよ。叩かれた所がズキズキする。物理的な暴力が振るわれない分、烈學館の方がマシなんじゃないの? ……でも、エッチなことはして来なかったし、優しくも励ましてもくれたし、それに、顔もしぐさも声もすごく萌えるし、これからもあの子達に教えてもらいたいなって感じたな。
 お布団の中で、昇子はそんなちょっぴりMっ気が芽生えて来た。彼女が眠りに付いてから数分のち、
「昇子さん、傷を治しておきますね」
 眼鏡を外した伊呂波が国語のテキストから飛び出て来て、昇子に向かって両手をかざした。
 すると昇子の顔や腕、下腹部、足に出来た痣が瞬く間に消えていったのだ。
「昇子さんの寝顔、いとらうたしです。わらわは体罰に加担しないので、ご安心下さいね。おやすみなさい」
 伊呂波は小声でそう伝えて小さくあくびをし、自分のテキストへと戻っていった。

             ☆

 翌日夕方。昇子が帰宅して自室に足を踏み入れると、
「ショウコちゃん、いよいよ明日はモユちゃんと百合デートだね」
 サムが嬉しそうに話しかけて来た。
「だから私、百合じゃないって。ところで、今日席替えがあったんだけど、森優ちゃんと、帆夏と同じ班になったよ。うちのクラス、女子が男子より二人多いから、一組だけ女の子同士で隣り合うんだけど、当たるとは思わなかったよ」
 昇子は不思議そうな表情で教材キャラ達に伝える。
「ショウコイルのクラスが移動教室中に、オレっちが忍び込んで籤に細工したのだ」
 摩偶真は自慢げに語る。
「えっ!」
「ショウコイル、嬉しいでしょ? モユリア樹脂のお隣になれて」
「いや、そんなことは……むしろ、すごく気まずかったよ」
 昇子は俯き加減で言った。
「ショウコちゃん、現在進行形で照れてるよ」
 サムはにこにこ微笑みかけ指摘する。
「照れてないって。というか摩偶真くん、勝手に学校入っちゃダメだよ」
 昇子は困惑顔で注意した。
「まあいいじゃん。オレっち、マナミトコンドリアもショウコイルと同じ班にしようとしたんだけど、ミスしちゃったよ」
 摩偶真はてへりと笑う。反省の色は全く見られなかった。
「摩偶真さん、わらわ達は〝家庭学習用教材〟ですよ。基本的にお外へは出ず、受講生の自室と家庭内に引き篭っているのが役目ですからね」
 けれども伊呂波ににこっと微笑みかけられると、
「分かりましたのだイロハロゲン。今後は緊急の場合を除きショウコイル宅内部から外へは出ません」
 摩偶真は本能的に反省の色を示したのだった。

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