雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 昼休みは桃子と一緒に社食でお昼を食べていたけど、ざるそばを半分食べた所で手が止まる。

 雨宮課長のスキャンダルが出てから、胸が苦しくて食事をする気にならない。
 何とか食べなければと頑張るけど、今日も半分残した。

「奈々子、ダイエットしているの?」
 ナポリタンを食べていた桃子に言われた。

「なんか、痩せたよね?」
 まつ毛の長い瞳が心配そうにこっちを向く。

「奈々子も雨宮課長に失恋?」
 桃子の冗談が冗談に聞こえず、苦笑い。

「週刊誌びっくりだよね。まさか佐伯リカコとだなんて。課長に失恋した女子社員いっぱいいるらしいよ。でも、雨宮課長の週刊誌の記事に動じない様子がクールでいいって声もあるみたいよ。それで男性社員は嫉妬が凄いらしい。佐伯リカコは恋人にしたい女優ナンバー1だからね」

なにが恋人にしたい女優ナンバー1よ。不倫しているくせに。
割り箸をギュッと握りしめたら、バキッと折れた。

「うわっ、凄い怪力」
 桃子が目を丸くする。
 まさか折れるとは思わなかった。

「奈々子、本当に雨宮課長に失恋したの?」
「まさか。雨宮課長の事なんか何とも思ってないんだから。だいたい課長と7歳も年が違うのよ。見た目はカッコイイけど、でも、雨宮課長っておじさんじゃない」

 雨宮課長の事を否定しなければ、泣きそうだった。

「それに迷惑なのよね。女優と写真なんか撮られちゃってさ。総務部への問い合わせの電話が増えて、通常業務の邪魔になっているのよ。誰とつき合ってもいいけど、もう少し気をつけて欲しいわ」

「奈々子、あの」
 桃子が困惑顔で私の後ろを指す。
 振り向くとぶすっとした表情の雨宮課長が立っていた。
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