雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】

救ってくれた人

 阿久津に異動を言い渡されてから一週間。
 引継ぎでバタバタとしていて目が回るほど忙しい。皮肉な事に悲しんでいる暇もない。

「『ラストヒロイン』は先日のプレス試写の結果が好評で映画雑誌の他に女性誌でも取り上げてもらう事になりました。それからファッションメーカーとのコラボ企画ですが、こちらはラストヒロインのTシャツのデザインがあがって来ました。つづいて化粧品の方ですが、限定でラストヒロインのロゴ入りのコンパクトを生産する事になり、順調にコラボ企画も展開中です」

 久保田の発表を隣で聞きながらどこか熱意が感じられない気がする。無理もないか。私の仕事を引き継いでやってくれている案件だ。

 今、宣伝部ではこの冬に公開する「ラストヒロイン」のプロモーションで動いている。

 映画の買い付け、劇場ブッキング、そして宣伝が私たちの仕事になる。

 宣伝は映画の興行成績と大きく関わってくるのでとても重要な仕事になる。失敗すればお客さんは入らないし、あたれば思っていた以上の収益となって返ってくる。

 だから宣伝部の人間は限られた予算の中で宣伝する映画の魅力が伝わるような宣伝プランを死ぬ気で立てる。自分が関わる作品は我が子のように愛しくなる。

「久保田」と、テーブルの向かい側に座っていた阿久津がため息混じりに呼んだ。
「あれ、どうなった?」
 不機嫌そうな阿久津の様子に久保田の肩がビクッと動く。
 暴君が難癖をつけてくる気配をこの場にいる全員が感じとり、会議室の空気が瞬時に重くなる。
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