雨宮課長に甘えたい  【コンテスト用】
 一時間、無心で掃除した。
 リビングの床の上のペットボトルも、テーブルの上の雑誌も片付け、寝室の衣服もクローゼットに戻し、ベッドは新しいシーツに取り換えて、洗濯物は洗濯機に突っ込んだ。一袋分のごみはとりあえずベランダへ。

 掃除機もかけた。仕上げに使い捨てモップで床も拭いた。玄関もちゃんと箒で掃いた。台所のシンクも磨いた。今できる完璧な掃除が出来た。よし、とりあえずこれでOK。

 雨宮課長を駅まで迎えに行かないと。

 ピンポーン。
 インターホンが鳴った。

 嘘、もう雨宮課長来たの!

 玄関ドアを開けると、仙台で見たままのスーツ姿の雨宮課長がいた。
 病院で課長と別れてから半日も経っていないのに、長い間会っていなかったような気がする。

 雨宮課長の顔を見たら、張り詰めていた気持ちが緩んで課長が何かを言う前にその胸に飛び込んだ。

「雨宮課長に会いたかった。会いたかったです」
「俺も中島さんに会いたかった」
 課長の奇跡のような言葉を聞いて、私たちの関係は上司と部下から変わったんだと確信する。

「雨宮課長が好き」
「中島さん……」
 雨宮課長が抱きしめてくれる。

「俺も中島さんが好き」
 初めて課長の気持ちがわかる言葉をもらった。
 嬉し過ぎて涙が溢れてくる。

 まさかこんな日が来るなんて思わなかった。嬉しいよ。雨宮課長、大好き。
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