人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 暗い地下牢にぶち込まれたイレーナは鉄格子の向こうのスベイリー侯爵に訴えた。

「アンジェさまに毒を盛ったのは私ではありません!」
「黙れ! お前とアンジェは部屋にふたりしかいなかったのだ。侍女も護衛もつけずにな。そういう計画だったのではないか?」
「違います。アンジェさまからふたりきりになりたいとの申し出があったのです」
「この期に及んでまだ言い逃れをするつもりか。おい、お前たち」

 侯爵に呼びかけられてずらりと並んだのは黒衣の男たち。
 その手に鞭を持ち、腰には短剣が携えてある。
 彼らの存在はイレーナも耳にしたことがあった。
 罪人の拷問を専門とする者たちである。

「イレーナ妃が口を割るまで痛めつけてやるがよい」

 侯爵がにやりと笑って命令した。
 イレーナはぞくりと背筋の凍る思いがした。

(嘘でしょ? まさか、証拠もないのに拷問するの?)

 侯爵は皇帝が留守だからやりたい放題なのだろう。
 イレーナは彼を睨みつけながら、胸中で必死に願った。

(ヴァルクさま……早くっ……早く、帰ってきて……!)



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