人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています
「南の国に左遷されることになりました」
騎士団長から報告を受けたアンジェは驚愕した。
「偶然にも、あなたの追放先と同じ国のようです」
それを聞いたアンジェは鬱々とした表情でぼそりと言う。
「わたくしを監視するためなのね」
それに対し、騎士団長は表情を変えず淡々と話す。
「カザル公国はとても自然が豊かで人も親切で子どもを育てやすい国だそうです」
「……陛下はどこまでも酷い人ね。イレーナ妃の故郷へわたくしを飛ばして、あろうことか一生縁のない子育ての話までするなんて……」
追放され、身分を奪われた女に、誰が結婚などしてくれるだろう。
国外とはいえ、カザル公国とは友好関係が築かれている。
元公女であるイレーナが正妃となった場合、前の正妃の話も当然噂になるはずだ。
「身分を剥奪されて人々に後ろ指を差されながら惨めに生きるなんて処刑よりもつらいわ」
嘆くアンジェに対し、騎士団長はとても冷静だった。
「考え方を変えてみるのはいかがでしょう」
「どういうことかしら?」
アンジェが眉をひそめると、騎士団長はしっかりと目を合わせた。
まるで告白でもするような、真剣な表情だった。