人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 なぜか鼓動が激しく高鳴る。
 これは今までの緊張とは少し違うようだ。
 イレーナは複雑な心境で、クマのぬいぐるみを見つめる。
 そして、ハッと気づいて急にもやもやしてきた。

「でしたら、普通に渡していただきたいです。こんな、顔にぶつけるなんて、せっかくお化粧したのに台無しです」

 勢いで胸の内をさらし、あろうことか皇帝に反論するとは、イレーナは即座に後悔し、自分の身を案じた。
 だが、ヴァルクは「ははっ」と声を上げて笑った。

「お前は本当に変わっているな。他の奴らは俺の機嫌を取るのに、お前は素直に感情をぶつけてくる」
「お、お怒りでございますか?」

 イレーナはクマのぬいぐるみを抱いたままカチコチに固まっている。
 ヴァルクはイレーナの顔を興味深そうに覗き込む。

「いや、面白い」
「え?」
「お前がそのままでよかった」
「それは、どういう意味ですか……って、きゃあっ!」

 ヴァルクはクマのぬいぐるみを抱いたイレーナを抱き上げた。

「少し重くなったな。食事の量を増やして正解だった」
「し、失礼ですわ! 女に太ったなんて言わないでいただきたいです」
「このほうが触り心地がいい」
「ひゃあっ!」

 腰を触られて驚いたイレーナがヴァルクに抱きついたので、クマはぺしゃっと潰れた。



< 52 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop