人質として嫁いだのに冷徹な皇帝陛下に溺愛されています

 こんなこともあろうかと、イレーナはリアに頼んでヴァルクの衣装も取り寄せてもらっていた。
 ヴァルクは用意された衣装に着替え、くすんだ肌色にするためにリアにメイクを施してもらった。
 侍従のテリーは困惑の表情でぼそりと言う。

「男に化粧とは……」
「陛下は肌の色が美しすぎるのです。これではすぐにバレてしまいます」

 リアと使用人たちの努力の結果、ヴァルクは見事な平民へと変貌した。
 がっちりした体格に薄いシャツとスラックス、ぼさぼさにした髪型は町のどこにでも歩いている民そのものである。

「まるで下町の大工のようなお姿だ」

 テリーの意見にリアが答える。

「完璧ということですね!」

 それでもイレーナの目には完璧には映らなかった。
 やはりヴァルクの生まれ持った王族のオーラはどうやっても隠すことができないのである。
 それとも、自分のヴァルクを見る目は他の者たちと少し違うのだろうか。

(最近、陛下がやけにキラキラして見えるのよね。私の視力が悪くなったのか頭がおかしくなったのか……)

 見えるだけではなかった。
 ヴァルクの視線と合うたびに、イレーナはいちいち胸がどきりとするのだ。



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