今はまだ、折れた翼でも
15 私にとって
水曜日の夜。望くんは夜になっても帰ってこなかった。

お母さんは、「映茉ちゃんを悲しませたくなかったのよ」って言っていたけれど、それなら、せめてちゃんとお礼くらいは言いたかった。それと、お別れ。

でも同じ学校で同じクラスなのに、お別れはおかしいかな。


私はまだ少し熱い額を抑えながら、ふとんにもぐる。

夏のはずなのに、寒くて、心臓が冷たい。

あのときみたいに探しに行きたい。だけど、お母さんはそれを許してくれないだろうし探すのは望くんの迷惑になるかもしれない。

でも明日になったら、帰ってくるかもしれない。



わずかな希望を持って明けた朝。木曜日も、結局帰ってこなかった。


この家にその存在がないことが信じられなくて、寂しい。

木曜の夜。私は眠れなくて真夜中にこっそりと、いまだに『ゆうたろー』と書かれたプレートの掛かる部屋のドアをゆっくりと開けた。

部屋の中は、きれいに片付いていた。

望くんのものは、何一つ残っていなかった。


あの日、最後に挨拶を交わした水曜日の朝。あのとき、特に荷物が多そうだなとは思わなかった気がする。

たしかに、望くん、荷物少なそうだもんな。余計なものとか、持ってなさそう。
< 125 / 198 >

この作品をシェア

pagetop