今はまだ、折れた翼でも
でも、望くんの知らないところで聞くのは申し訳ない。

それに、望くんにはもう二度と会えないかもしれない。もし望くんが、私のことを避けているのなら。



「望にとって、鳥越さんは、大切な人なんでしょう」


「……え?」



一分くらい沈黙が続いた後、竹林さんが独り言のようにつぶやいた。

私も問いただすつもりはなく独り言のようにそう言う。


……私が、望くんにとって大切な人。

なんて、ありえるのかな。

だって、私と望くんはたった一か月一緒にいただけの関係で。それがなければ、一生他人同士のただのクラスメイトだったかもしれない。

そして私は、望くんのことを知らないままだったはず。


望くんにとって私がどういう存在かなんて、考えたことがなかった。

逆は考えたことがあったけど。


……私にとって望くんは、好きな人で、でもそれ以前にとても大切な人。かっこよくて、あんまり口数が多いほうではないけど、でも言葉には優しさがあって。

嫌いなところがあって自分に自信がない私のことを、肯定してくれて。それが、なんだかくすぐったいような暖かい気持ちになって。
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