偽る恋のはじめかた
「あるか、なしかで言えば、初めて上がった女の部屋を掃除して帰る男は・・・・・・ないですね」
「うわぁ、やっぱりダメだった?椎名さんの部屋があまりにも汚くて、居ても立っても居られなかったんだ」
「・・・・・・すみませんね。汚くて」
今まで通りにしようと思えば思うほど、可愛くないことばっかり言ってしまう。我ながら嫌になる。
「あのさ・・・・・・、あんな汚い部屋に人が住めるの?ハウスダストとか体への影響は大丈夫か?」
「うっ、・・・・・・全然大丈夫、ですけど?」
心配そうな目つきで眉は八の字に下がっている。その表情から、本気で心配してくれているのは伝わるが、言ってることはだいぶ失礼だ。
「俺じゃなくても、誰でも掃除したくなると思うよ?」
挙げ句の果てにはこの一言。
いや、酔っ払ってる女をベッドまで運んで、邪な感情を一切出さずに、掃除して帰る男は桐生課長だけだよ。
これでもかと言うほど、しかめっ面をして表情には思いっきり出したが、口には出さずに心の中で反論した。