偽る恋のはじめかた
「・・・・・・ごちそうさまでした。
桐生課長、自分の分は払います」
「いや、いらないよ?」
いつも奢ってもらってばかりで、流石に申し訳なく思っていた。今回は自分の分だけでも払おうと思っていたのに、私がトイレに行ってる隙に会計を済まされてしまったので、お店の外に出てから押し問答を繰り広げている。
「いや、いつも払ってもらってるので、自分の分だけでも・・・・・・」
「今日来てくれたお礼だから」
『来てくれたお礼』なんて、奢ってもらった側が気にしないように、スマートな台詞も言えちゃうんだ・・・・・・。
「・・・・・・ありがとうございます」
「うん」
はぁ、ずるいなあ。
彼の言葉に私の心は、いとも簡単にときめいてしまう。