夕陽を映すあなたの瞳【書籍化】
 「久住、正直に思ったことを答えてね」
 「え?う、うん」

 心は昴の言葉に頷く。

 「俺が、つき合ってる人がいるって言った時、久住、どう思ったの?」
 「どうって…。何か思ったのかなー。ただ、そうなんだって」
 「ふーん。あのね、俺、つき合ってる人いないよ」
 「え、そうなの?!」

 思わず顔を上げて昴を見る。

 「うん。告白されたらそう言って断るのが一番いいと思って」
 「あ、確かに。それが一番傷つかないし、諦めつくね。そっか、なるほど」

 心が感心していると、昴がふっと笑う。

 「じゃあ今、俺がつき合ってる人いないよって言った時、久住どう思った?」
 「え?あ、そうなんだって」
 「嘘だね」
 「え?」

 思わぬセリフに、心は驚いて昴を見る。

 「久住の顔、パッと明るくなったよ」
 「え、そ、そうかな?」
 「じゃあ今、俺が久住に好きだって言ったら?どう思う?」
 「そ、それは、その…。そうなのねって」
 「…ふーん」

 昴は何かを考え込むように黙る。
 沈黙に耐えかね、心はそっと昴を見上げた。

 「あの…伊吹くん?」
 「じゃあ、俺が今、久住にキスしようとしたら?」
 「は?!な、何言って…」
 「嫌だって思う?やめてって、思わず引っぱたく?」
 「そ、そうかな?うん。そうかも」
 「じゃあ、確かめさせて」
 「え、な、何を…」

 思わず昴を仰ぎ見た心は、じっと自分を見つめる昴の瞳に息を呑む。

 切なげにゆらっと揺れる深い色の瞳。
 その瞳の奥に、あの夕陽のような温かさを感じ、心はまばたきを忘れて見とれた。

 やがてゆっくりと目を閉じた昴が、心の肩に手を置いてそっとキスをする。

 唇が触れた瞬間、心の胸がキュッと傷んだ。

 柔らかく温かい昴の唇から、たくさんの優しさや愛情が注ぎ込まれる気がして、思わず涙が込み上げる。

 名残惜しむようにそっと昴が唇を離すと、心は、もっと触れていたかったのにと、寂しささえ覚えた。

 「あれ?引っぱたくんじゃなかったの?」

 昴のいたずらっぽい声がして、心は一気に赤くなる。

 「え、そ、それは。そんな暇がなくて…」
 「ふーん。じゃあ、キスされてどう思った?」
 「どうって、な、何も…」
 「はあ、もう…。ほんとに嘘つき」

 昴はため息混じりに言う。

 「本音で話してくれるって言ったのに、どうして嘘つくの?」
 「え、嘘なんてついてないし…」
 「じゃあなんで、キスされて何とも思ってないのにそんなに真っ赤になるの?何とも思ってないのに、どうしてそんなに目を潤ませてるの?」

 うっ…と思わず、両手で頬を隠す。
 すると昴はいきなり心を腕に抱きしめた。

 「い、伊吹くん、何を…」
 「顔見ないから、正直に答えて。久住、今、俺に抱きしめられて嫌?」
 「う、…ううん」
 「じゃあ、キスされて嫌だった?」
 「…ううん」
 「俺に好きだって言われて、嫌だった?」
 「ううん」
 「じゃあ、俺のこと、好き?」
 「………うん」

 昴はふっと笑って心の顔を覗き込んだ。

 「ようやく本音が聞けた」

 そしてもう一度、優しくそっとキスをする。

 「久住は俺が好きなんだよね?」
 「うん」
 「俺も。久住のことが大好きだよ」

 心は潤んだ瞳で昴を見上げる。
 自分の中で、私はこの人が大好きなんだと納得した。

 「私、伊吹くんのことが好きなの」
 「ふふ、知ってる」

 二人は微笑み合い、3度目のキスをする。
 それは優しく温かく、涙が出るほど幸せな瞬間だった。
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