素直になれなくて。
 
彩梅(あやめ)、行って良いって?」
「うん! 母さん渋々だったけど良いって!」

 高校二年の夏休み、クラスで仲のいい男子グループと私達女子グループで花火大会に行く事になった。

 帰りが夜遅くなるし、治安に少し不安がある、との事で母さんがなかなか頷いてくれなかったけど、期末を頑張ったご褒美に、お願いっ! と半ば縋り付いて、どうにかこうにか許可をもぎ取った。

 友達の恵美ちゃんとキャッキャと喜んでいると、一緒に行く男子グループの吉田くんがニヤニヤとして近付いて来た。

「なぁなぁ、やっぱ浴衣着てくるんだよな?」

 何がどうやっぱりなんだろうか。

「当たり前じゃん!」
「えっ、そうなの?」
「えっ、彩梅は洋服で行くの!?」

 私、何も考えて無かった。
 花火大会に行って良いって許可貰えた! って所で終わってしまっていた。
 うーん、と悩んでいると恵美ちゃんが「綾瀬に告白するんでしょ?」と耳打ちして来た。

「なっ!?」

 なんで知ってるの!? と叫びそうになって、慌てて両手で口を押さえた。
 綾瀬くんはグループ内ではとても静かな方で、特に目立つ容姿でも無いし、多人数でいる時はニコニコ笑って話を聞いているっていうのが皆の共通イメージだと思う。




 二年になった頃、放課後に図書室に行ったら綾瀬くんがいた。
 何をしているのかと聞くと、家で読む本を借りる為に来たとの事だった。

「私も!」
「シー、怒られちゃうよ?」
「あっ、つい……」
 
 同じ理由で訪れていた事が何だか嬉しくて、ついつい大きな声になってしまった。
 その日から、気付けばほぼ毎日のように放課後の図書室で綾瀬くんと会うようになった。
 初めの頃は「鶴さん」と名字で呼ばれていたけど、ひょんな事から、綾瀬くんは男子達から『(あや)』と呼ばれ、私は彩梅の『(あや)』で呼ばれる事がままあって、紛らわしいよねーって話になった。

(うめ)さん」

 私は綾瀬くんと呼び続けたけど、彼はこの時から彩梅の梅を取って『梅さん』と呼ぶようになっていた。
 



 その日から、毎日のように図書室で逢い、色々な事を話すようになって、徐々に彼に恋をしていった。
 物腰柔らかな話し方、掠れたような低めの声、イケメンとかじゃ無いけど、優しさが滲み出て来るような顔。
 どれもこれもが好きになっていた。
 綾瀬くんに好きだと伝えたい、でも勇気が出なかった。
 何度か図書室で「好きです」と、言おうとしたけど、タイミング良く他の人が来たり、「綾瀬くんっっ…………あの、何、借りるの?」と結局いつもの会話をしたりしてしまっていた。
 だからこの花火大会で、好きだと伝えたかったのだ。



「頑張りなよ?」
「うん、頑張る……」

 恵美ちゃんに相談しつつ、応援されつつ、とうとう花火大会の日になった。

「あれ、梅さんは浴衣じゃ無いんだ?」

 本当は浴衣にしようと思ってたけど、何か……何かすごく張り切っているみたいに見えたらヤダな、とか思って洋服で来た。
 私ってひねくれてる。

「動き辛そうだなって……」
「ふうん? そっか」

 それから他愛もない話をしつつ、皆で屋台巡りなどをして、花火の打ち上げ時間になった。
 恵美ちゃんの協力のもと、綾瀬くんと二人きりになれた。

「うわぁ、大っきいね!」
「あはは、ほら、また上がるよ?」

 ドーンとお腹に響くような騒音と、ザァァと降って来そうな花火を二人で見た。
 最後の特大の花火が上って、終わりのアナウンスが聞こえたあと、綾瀬くんが「帰ろうか」と小さな声で呟いた。
 このままじゃ、何にも進展しないまんまで帰っちゃう! 今しかない! と慌てて口を開いた。

「綾瀬くんっ、私ね、私、綾瀬くんの事、好き……かも?」

 ――――あぁっ!

 自分の口から飛び出てきたのは、予想だにしていなかった言葉。
 『かも?』って、何なの!?
 なんで、こんな時に素直になれないの!?
 なんで、捻くれた私が出て来ちゃうのぉぉ!?

 恥ずかしくて、悔しくて、視線を足元に落とした。

「…………ん、ははっ。うん、俺も、好きだよ」
「っ、え!?」

 綾瀬くんがあははと声を出して笑いながら、少し屈んで私と目を合わせてくる。

「梅さん、好きだよ。明日からも、よろしくね?」
「っっっっ、う、うんっ!」




 ◇◆◇ おわり ◇◆◇


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