もう唄わないで

日常


「……じゃあ、今度は私が【鬼の子】だね」



奈保ちゃんはそう言って、私が取った目隠しを手に取った。





璃花子ちゃんが私と勇気くんのそばに来る。

仲谷くんと、岡本くんも、私達に近寄って来る。



みんな、暗闇に目が慣れている。

みんなの表情を確認し合えた。



私達は、誰も笑顔じゃなかった。

眉根を寄せて。

苦しくて。

つらい。

……そんな表情だった。





目隠しをした奈保ちゃんは、
「あ〜ぁ、また【鬼の子】かぁ」
と、呟いた。


「いつ帰れるのかなぁ?忘れちゃいけないんだよ。……21113。覚えていなくちゃ」



そんなことを、何度も何度も。

繰り返し呟いている。





私の頬に、冷たいものが伝った。

それが涙だと気づくことに、少し遅れた。




(ごめん、ごめんなさい……)




私は。

ううん。

私達は。

きっと、この夜を忘れない。




忘れられない。





「ねぇ、唄ってよ」
と、奈保ちゃんが言う。



「早く唄って」




「……」



私達は黙ったまま。

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