仕事サイボーグな私の恋愛事情~人生は物語のようには上手くいかない。それでも…また恋を始めても良いですか?
何も知らなかったふりをして、この関係を続ける事も出来る。でも……このままではいけない。この関係を崩すことになると分かっていても、聞かなくてはならない。名前を呼ばれた美月は意を決して大和に向きあった。
「大和さんには奥さんがいるんですか?」
「…………」
何も答えない大和さんに、美月は震える声でもう一度質問した。
「大和さんは結婚……していたんですか……?」
私の問いに大和が溜め息交じりに答えた。
「はぁ……。知っていると思っていた」
溜め息……。
知っていると思った?
この人はこんな風に溜め息を付く人だったのか……。
二人きりの食事を楽しむ人に奥さんがいると思うわけ無いのに、知っていると思っただなんて……。
なんて身勝手な言い訳。
大和さんは自分が既婚者だと私が知らないことを良いことに、近づいたはずだ。何も知らずに好意を受け入れる私は大和さんに取って良いカモだったのだろう。
何も知らない私に知っていると思った?
ホントになんて身勝手な言い訳なのだろう。
何も知らなかったというのに、まるで共犯者を仕立てるように、お前も知っていたのだからこの関係……『不倫』は共犯だと言われているようだった。
「美月、ごめん。話せば良かったな……」
その時、先ほどの不遜《ふそん》な声とは裏腹に今度は優しい声が聞こえてきた。
優しい声……困った様な優しい微笑み。
美月は混乱した。
不倫はいけないこと、頭ではそう思っているのに、大和さんを拒絶出来ない自分がいる。それほどまでに、私は大和さんに引かれていた。本当ならばこの時点で、何としてでもこの思いを断ち切らなければならなかったのだ。それをしなかったことで、その後大きな事件が起こり、後悔することになることを今の美月は知らなかった。