仕事サイボーグな私の恋愛事情~人生は物語のようには上手くいかない。それでも…また恋を始めても良いですか?

 そんな中、鬼気迫る様子でパソコンのキーボードを叩きつける美月の元に、一人の男性がやって来た。

「岡本さん、大丈夫ですか?もう昼休みの時間ですよ。少し休んで下さい」

 そう言ってきたのは美月の上司で、部長の磯田政信(いそだまさのぶ)だった。磯田は柔らかい表情で、眼鏡の奥にある目を細めた。磯田はいつもこうして部下達を気遣い、アドバイスや注意を促してくれる。誰にでも優しく微笑み部下に対し誠実な磯田は、社員達にとても人気がある。35歳という年齢だが、まだ独身で何故こんなに良い人が独身なのかと、社員達は首を捻るほどの人物だ。

「岡本さん、集中して仕事をするのも良いですが、きちんと休憩も取って下さい。仕事を効率よくこなすには休憩も大切でよ」

「すみません……」

 シュンと項垂れる美月に、磯田が優しく微笑む。

「岡本さん何かありましたか?」

 磯田からの問いに、美月は答えられなかった。いくら信頼する上司であっても、さすがに昨日の事を言うことが出来ない。両親に自分の誕生日も忘れられ和解するどころか、疎まれて、蔑まれて……。最悪な時間を過ごし、ホストの涼に出会ってお酒を飲み、記憶を無くして涼の家で寝ていた何て……口が裂けても言えるわけがない。

 美月はスッと立ち上がり、無表情で磯田に一礼した。

「特に何も……お昼休暇行ってきます」



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