仕事サイボーグな私の恋愛事情~人生は物語のようには上手くいかない。それでも…また恋を始めても良いですか?

 唐揚げ……唐揚げよね。

 唐揚げ大好き……よし!大丈夫。
 
「私も好き」

 冷静になった美月がそう答えるが、美月もまた「唐揚げ」の文字が抜けていることに気づいていない。

 そんな美月の言葉に涼がよろめいた。

「美月は俺のことを試しているの?言っておくけど俺も男だから、このままずっとお預けとか無理だからね」

 涼はそう言って、美月の顎を軽く上に上げた。

 このままキス……の体勢なのだが、美月はキョトンとしてから「ああ……」と頷く。これはOKの合図なのだろうと、涼が美月の顔に自分の顔を近づけた時、口の中に香ばしい何かが突っ込まれた。

「はい、唐揚げ。ゴメンね気づかなくて。お預けなんかにしないから沢山食べてね」 

 それを聞いた涼が「はぁー」と大きな溜め息を付いた。

 無意識が過ぎると涼がボソリと呟いたが、それは美月の耳には届かなかった。

 大きな溜め息を付きながら片手で目元を押さえる涼に、美月が心配しながら顔を寄せた。

「涼、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。攻撃しようとして、撃沈しただけだから……でも決めた!これからは攻撃あるのみ」

 ?

 何だかよく分からないが、涼は笑っているから大丈夫なのだろう。

 涼のよく分からない決意に首を傾げていると、涼がこめかみにキスを落としてきた。チュッと鳴るリップ音と共に、体の体温が一気に上がり、美月の全身が赤く染まる。

「涼ったら、ふざけないで!唐揚げは熱いうちが美味しいんだから、早く席に着いて」

「あー。はいはい」


 美月はこの時、すっかり忘れていた。

 自分の人生が物語のようには上手くはいかないということを……。 



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