卒業証書は渡せない

21.そつぎょう?

 期末試験のあとはしばらく休みになった。
 奈緒と弘樹は相変わらずで、休みの日は何度か会ったと聞いた。けど、何をしたか具体的には聞いていない。

 そんな気分じゃなかった。
 いま一番一緒にいたい人が、自分のことを理解してくれている人が、あと少しでいなくなってしまう。

「いつでもメールして。なるべく早く返すから」

 牧原君はそう言うけど、会えないなんて、辛すぎる。
 別れは延期して遠距離をすることになったけど、いつ会えるかはわからない。会えないかもしれない。

 そう思い出すと止まらなくなって、親友の奈緒からの甘い誘いも、断ってしまった。

 奈緒は、2人だけで会おうって言ってくれたのに。
 いつもの私なら、飛んでいくのに。

 久々に学校に行ったのは、卒業式の日。もちろん、主役は私じゃない。

「先輩、おめでとうございます!」
「おお、さんきゅー! あとは頼むぞ!」

 桜が咲いていないのは少し残念だけれど、卒業生たちの笑顔は満開だった。
 いつもと違う雰囲気に飾られた教室や、正門の前で写真を撮ったり。後輩たちにメッセージをもらったり。いつもは厳しくしていた先生たちも、正装してにこやかにしていた。

 本来なら、私が来る予定はなかったけど。
 バレー部の弘樹が、先輩の斎鹿章人を見送ることになっていて。テニス部の奈緒も、先輩を送ると言っていて。バスケ部の牧原君も、忙しいけど来るとかで。

 夕菜もおいでよ! ってみんなに誘われた。
 卒業式場には入れないので、4人で外で待っていた。

「ねぇ、あの子、またいるよ」

 そんな奈緒の言葉に振り返ると。
 謎の女の子が、おそらく友人たちと卒業生を待っていた。

「あの子、どっかで見たことある」

 言ったのは牧原君だった。

「どこだっけなぁ……確か外で……」
「外?」
「うん。外っつーか、グラウンド……あ! バスケ部だ! 確か名前が……」

 そうこうしているうちに、卒業生が現れて。
 斎鹿章人が、弘樹のところにやってきて。
 奈緒も、クラブの先輩のところに挨拶に行って。
 牧原君はクラブの人たちに呼ばれながらも、私のそばにいてくれて。

 しばらく経って、卒業生がグラウンドでプチパーティーを始めるというので、下級生は帰ることになった、直後。

「ひろみー悪い、これ、持って帰ってくれ」

 間違いじゃなかったらそれは、章人の声で。退院はしたけど、まだ松葉杖で。

 おそらく、ひろみと呼ばれた人物に自分の荷物を預けようとした、ただそれだけのときに。

「もしかして──」
「──先輩の」
「妹、さん……?」
「ひろみ……女子バスケ部の斎鹿博美(さいかひろみ)だ」

 章人から荷物を受け取っているのは、例の謎の女の子だった。

「先輩の妹かぁ。そういえばなんか似てるなぁ」
「だからって弘樹、押されたらやだよ……」
「心配ないよ」

 そんな弘樹と奈緒の会話は、かわいい、けど。
 本当なら一緒になって応援してあげたい、けど。

 今はそんな気にはなれなくて。

 少し上の空で聞いていた牧原君の話に適当に相槌をうったら、彼の顔が近くなって、すぐに離れた。

「────────あ」
「反応、遅いよ」

 絶対、顔が真っ赤っ赤。
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