麗しの香道家は、傷心令嬢を甘く溺愛して離さない。

◇予期せぬ再会




「本当に、ごめんね……」


 二月中旬の今日この頃、宗一郎さんは県外で出張に朝旅立って行った。だけど、なぜ私がお義母様に謝られていたかというと――それは、昨夜の二十一時に遡る。





 私は当初、宗一郎さんの出張に旅行がてらついていくことになっていた。だが、一本の電話が入り状況が変わった。

『腰を痛めてしまって……昨日から誰もいないから、申し訳ないんだけど――』

 義母が腰を痛めた。段差から足を踏み外してしまったらしい。
 なのに、昨日から一週間佐山邸はタイミング悪く家政婦さんも皆一斉休暇というものに入ってしまったのだ。だから、一番動ける私に声がかかったのだ。




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