麗しの香道家は、傷心令嬢を甘く溺愛して離さない。

◇私はもう大丈夫だから



 茶席に行ってから私は家業の呉服屋で働き始めた。ただ、営業や接客はほぼほぼできない、高校生の頃にお手伝いをしたことしかないので全くの新人だ。


「……ありがとうございました」

「さすが、娘さんだねぇ。教えることないよ」


 新人の私はベテランの販売員に仕事内容を教えてもらいながら働いていた。


「まぁ、接客はぎこちないけど。知識はあるし、アドバイスもできる。着付けだって完璧だし」

「着付けは、大学生の時に役に立つかなと思って着付け技能士という資格を取ったので……まぁ、なんとか」

「そうなんだ。接客よりも、試着とかの方が合ってるかもねー……まぁ、若旦那がどう思ってるか分からないけど」


 でも確かに販売をしている時より、着付けをする時が一番楽しいかもしれない。だけどまだ、着付けの予約が入る時期ではないしシーズンもまだだ。

 今が一番、暇なシーズンだからお客様は常連のマダムたちくらいで着付けの方は仕事はない。


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